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Saturday, June 5, 2021

Netflix『ザ・クラウン』シーズン4: フィクションか、不都合な真実か - Nippon.com

英国のエリザベス女王の治世を描くNetflix『ザ・クラウン』は、2020年11月からシーズン4が配信されている。いよいよダイアナが登場する、待ちに待ったシーズン4とあって人気も上々。さらに、第78回ゴールデングローブ賞のドラマ部門主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、作品賞の受賞もさることながら、シーズン4の描き方に王室高位メンバーがご立腹だと報じられるなど話題性も十分だ。

鮮やかな対比で描き出す激動の80年代

エリザベス(オリヴィア・コールマン)とフィリップ(トビアス・メンジーズ)の結婚から始まった壮大なドラマは、1980年代へ。シーズン4は、1979年のサッチャー(ジリアン・アンダーソン)の首相就任と、フィリップの叔父マウントバッテンの爆死で幕を開け、サッチャー辞任までの約10年を描く。

この間、北アイルランド問題やフォークランド紛争、新自由主義の推進による社会の分断など続々と英国内には困難が押し寄せるが、皇太子チャールズ(ジョシュ・オコナー)とダイアナ(エマ・コリン)の結婚という慶事もあった。

シーズン4の主役はチャールズとダイアナ Netflix『ザ・クラウン』シーズン4
シーズン4の主役はチャールズとダイアナ Netflix『ザ・クラウン』シーズン4

今シーズンの特徴は、鮮やかな対比にあるだろう。

サッチャーとダイアナ、エリザベスとサッチャー、チャールズとダイアナ、ダイアナとカミラ(エメラルド・フェンネル)、チャールズと弟たち…。それぞれの違いを明快に際立たせることで多くを物語る。

中でも、スコットランドで休暇を過ごす王室から「狩り」に招かれ、戸惑うばかりのサッチャーと、すんなりなじむダイアナの対比は、階級の違いを強調して印象深い。かなりコミカルで、意地悪なエピソードだ。

「不幸な結婚」を暗示するエピソードの数々

ドラマの前半は、チャールズとダイアナの出会いから結婚までが中心となる。

王室のメンバーはダイアナを迎え入れることにOKを出した。チャールズはダイアナにプロポーズするが、カミラを愛することとは別儀だった。

チャールズの心をとらえるカミラはダイアナを食事に誘う Netflix『ザ・クラウン』シーズン4
チャールズの心をとらえるカミラはダイアナを食事に誘う Netflix『ザ・クラウン』シーズン4

2人の結婚はうまくいかないだろうと予感させることが、次から次へと描かれる。

ダイアナの摂食障害もそのひとつで、かなり早い時期から出現することに驚かされた。食べては吐くというようなシーンがある回には冒頭に警告があるが、それでも制作者が描いたのは、彼女の苦悩の深さを表現するには必要だと考えたのだろう。

だが、つらいシーンばかりではない。各地での熱烈な歓迎ぶりや、優しく弱者に接するダイアナの姿に心温まる思いがする。また、ファッションも大いなる見どころ。ウエディングドレスをはじめとする衣装の再現度も素晴らしいが、むしろ、ワンショルダーのドレスなど、似て非なるドラマオリジナルのものが魅力的に映った。

そしてもう一人、初の女性首相サッチャーにも注目しなければならない。自身の努力と勤勉さを前面に打ち出し、他人にもそれを求めるサッチャー。政治家としてはかなり強引で退くことを考えない鉄の女だが、その合間に見せる主婦の顔、母の顔はちょっと意外性がある。「時間を無駄にできない」とせわしなく動く姿に、働く女性は共感しそうだし、息子を露骨にかわいがるエピソードでは、無視された娘のいらだちがリアルだ。

サッチャー(中央)の政治家像と共に母親像も描く Netflix『ザ・クラウン』シーズン4
サッチャー(中央)の政治家像と共に母親像も描く Netflix『ザ・クラウン』シーズン4

さらに、貫禄を増したエリザベスと自説を曲げないサッチャーのやりとりは迫力満点。南アフリカへの経済制裁をめぐる女王と首相の対立の行方はスリリングで、一番の見せ場となっている。

「王」と、王のために存在する「その他」

中盤のハイライトは1982年に起きた「女王の寝室侵入事件」だ。宮殿に忍び込んだ男マイケルが、女王と実際に何を話したかは明らかになっていない。ドラマでは、職を失ったマイケルの生活を丁寧に描くことで、自助を説く個人主義的原理を強調するサッチャー政権の本質をあぶり出す。追い詰められたマイケルがエリザベスに「知ってほしい」と訴える内容は、今の日本の社会そのもので、胸が痛んだ。

女王の寝室侵入事件も扱われる Netflix『ザ・クラウン』シーズン4より
女王の寝室侵入事件も扱われる Netflix『ザ・クラウン』シーズン4より

終盤に向かって、チャールズとダイアナの亀裂は修復不可能なまでに広がっていく。ダイアナの人気に嫉妬し、カミラへの愛を隠さないチャールズは、すっかり“悪役”である。結婚生活に絶望し、不貞に走るダイアナを誰が非難できようか、というストーリー展開だ。

チャールズの嫉妬を買うほど、行く先々で脚光を浴びるダイアナ Netflix『ザ・クラウン』シーズン4
チャールズの嫉妬を買うほど、行く先々で脚光を浴びるダイアナ Netflix『ザ・クラウン』シーズン4

これまで、王族といえども同じ人間なのだと思うところが多かったが、シーズン4では、彼らが、他の人たちとは考え方が大きく異なることを際立たせている。「義務」はすべてに勝る。「幸福」の概念も同じではなさそうだ。後年、ダイアナの死に対する王室の冷淡さが話題になったが、その根が見えるような気がした。

「王」と、王のために存在する「その他」。王室の残酷な構図が浮かび上がり、シーズン4は幕となる。

すべてが事実に思えてくる「危険な薫り」

物語が現代に近づき、多くの人がリアルタイムで見てきたことが描かれる。一瞬、これがドラマであることを忘れてしまう。シーズン3までは「フィクションが巧みに織り込まれている」と冷静に見てきたのに、すべてが事実のように思えてくる。シーズン4には、そんな危険な薫りがある。

ダイアナのたっての希望で、外遊に幼い息子ウィリアムを連れて行く Netflix『ザ・クラウン』シーズン4
ダイアナのたっての希望で、外遊に幼い息子ウィリアムを連れて行く Netflix『ザ・クラウン』シーズン4

ドラマの作りや映像表現があまりにも巧みなこと、俳優たちが役にそっくりすぎることで、虚実の境が分からなくなってしまうのだろうか。それとも、自分の体験と分かちがたい同時代性に惑わされるのか。それほどまでに人を引き込む魅力に満ちた作品であることは間違いない。

来るシーズン5はキャストを一新、皇太子夫妻の離婚やダイアナの事故死など、王室にとっては受難の時期が描かれるだろう。観終わった瞬間に早くも続きが観たくなるとは、すっかり作り手の術中にはまってしまったようだ。

バナー写真:Netflix『ザ・クラウン』シーズン4より
Netflixオリジナルシリーズ『ザ・クラウン』シーズン1~4独占配信中

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