太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団という日本屈指の浮世絵コレクションが一堂に会した壮大な浮世絵展が東京都美術館で開催されている。浮世絵初期の菱川師宣から美人画の喜多川歌麿、さらに葛飾北斎や歌川広重といったスターまでおよそ60名の浮世絵師による455点が前期・後期にわたり集結しているのだ。
展示は「第一章 初期浮世絵」からスタートする。落ち着いた印象の紅色の壁に並ぶのは、菱川師宣や鳥居清倍ら17世紀後半から18世紀にかけて制作された作品。「浮世絵」と聞いて多くの人が思い浮かべるだろう色鮮やかでダイナミックなものからするとおとなしい印象かもしれないが、展示を追っていくと、浮世絵の表現が短い期間に大きく展開したことがわかる。墨一色の版による「墨摺絵」に始まり、筆彩色を施した「丹絵」や「紅絵」の誕生へ。背景はまだ無彩色のものが多いが、中国からの影響を思わせる絵画から独自の表現へと広がっていく。
「第二章 錦絵の誕生」に進むと、多色摺の版画の数々が登場する。18世期半ば、発展のきっかけとなったのは、趣味人の間で絵暦を私的な摺物として制作し、交換することの流行だという。そうした流行が起こったのは、幕府が統治して社会が落ち着き、平和の中で浮世を楽しむ庶民が増えたことの証だろう。細密な描写が施された錦絵の数々を見ていると、優雅に着こなした人々の様子からも江戸の豊かさが伝わってくる。
歌麿の美人画、東洲斎写楽や歌川豊国による「キメ顔」の役者絵の表情やメイク、装いも楽しいが、やはり最後の「第五章 自然描写と物語の世界」、北斎による『冨嶽三十六景』や広重『東海道五拾三次之内』から多くの絵が並ぶ展示は圧巻だ。平和で豊かな時代が300年続き、その社会状況が浮世絵の発展を支え、世界的に影響力をもつ確固たる表現力を備えるに至ったのだ。
3フロアにまたがる展示を堪能し、疲労と興奮が混じり合う心地よい“鑑賞後感”を味わうならば、ぜひ東京都美術館に足を運んで欲しい。
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August 17, 2020 at 02:00PM
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