メルセデス・ベンツとBMWのリムジンに対抗
text:Neil Winn(ニール・ウィン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
電動化技術の導入が幅広いモデルで進むが、最もそのメリットを享受できそうなのが、このアウディA8。高級なリムジンとして求められる部分で、通常のガソリンやディーゼルエンジンのクルマより優れているのだから。
リアシートの出色の洗練性や滑らかな乗り心地だけでなく、オーナーが嬉しい、控えめなランニングコストや環境負荷も得ている。PHEVだからこそ、だ。
ドイツブランドのBMWとメルセデス・ベンツは、PHEV版のリムジンを数年前から提供してきた。アウディの拠点、インゴルシュタットの技術者にとっては、目標となるモデルだったはず。
そしてアウディが持つ最新のハイブリッド技術を、A8へ投入する機会がやって来た。コンベンショナルな3.0L V6ターボ・ガソリンエンジンは、339psを発生。そこへ、127psの電気モーターが組み合わされている。
システム総合での最高出力は449psで、8速ATを介して四輪を駆動。大きなボディだが、パフォーマンスは充分に力強い。0-100km/h加速に要する時間は、PHEVのメルセデス・ベンツS560eやBMW 745eより短い、4.9秒となる。
最高速度は249km/hでリミッターがかかる。ドイツのアウトバーンでも不足はないだろう。
一方でA8 60 TFSIeを選ぶような、都市部の移動が中心となるユーザーにとって、もっと興味深い数字が電気の力だけで走れる距離。メルセデス・ベンツSクラスは40km、BMW 7シリーズは45-49kmなのに対し、アウディA8は46kmとなっている。
バッテリーの充電量を自動的に管理
A8 60 TFSIeのバッテリー充電量に不足がなければ、多くの状況で純EVのように目的地まで移動できる。電気モーターも、一般的な状況なら、充分な力を発揮する。
電気モーターとバッテリーで到達できる最高速度は135km/h。リアシートの乗員へ、素晴らしく静穏な移動体験をもたらしてくれる。エンジンノイズや変速といった賑やかさから開放され、リラックスした雰囲気に浸れるだろう。
バッテリーの充電量が少なくなるか、135km/hを超えるとV6ガソリンエンジンが始動。電気モーターからのバトンタッチはシームレスで、ほとんど感知できない。
風切り音なども聞こえず、加速感はどこか実体感がない。まるでエアバスのジェット機が離陸体制にあるように、A8 60 TFSIeは速度を増していく。
ただし、軽くはないバッテリーを搭載するため、A8 60 TFSIeはドライバーズカーではない。コーナーでは、エアサスペンションはボディロールを許してしまう。
ステアリングの操舵感は正確なものの、感触には乏しい。ブレーキの制動力も、ペダル操作に対しての一貫性に、やや欠ける場合がある。運転手のような技術を持つ人が、運転手のように走らせるクルマだ。
実際に運転すると、新たな発見もある。A8 60 TFSIeはナビゲーションのデータをもとに、バッテリーの管理を自動的に行なってくれる。目的地が近い場合は電気モーターの支援が積極的になり、距離が遠い場合はガソリンエンジンが活発にクルマを進める。
目前に制限速度の低い区間がある場合には、アクセルペダルに小さな振動を加え、回生ブレーキの利用を促してくれる。回生システムは、コースティング時に最大で25kW、減速時に80kWのエネルギーを回収し、バッテリーの充電量を増やせる。
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