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Tuesday, July 21, 2020

大統領就任をも目論むカニエ・ウェストの壮大な計画 <前編> - GQ JAPAN

ウェスト・レイク・ランチは実験場

カニエ・ウェストは昨年10月、ワイオミング州コーディにあるランチ(牧場)を購入した。以前はモンスター・レイク・ランチという名前だったのをウェスト・レイク・ランチと改名。2つの湖の間にあって面積は4000エーカー近く、湖では魚釣りを楽しむことができる。いくつかある洞窟の中へ入ると、そこにはかつての部族の者が描いた壁画が。この季節には何百頭ものカモシカやミュールジカや、それとヘラジカも何頭かやってくる。

そのウェスト・レイク・ランチで1月29日の朝、食事をとりに自室から出てきたウェストに調子はどうかと声をかける。「よくないよ」という答えに思わず、どうしてかと訊いてしまう。「だって」とウェスト。「コービーは俺の親友だったから」。ブライアントの衝撃的な死からまだ72時間しか経っていない。

あのコービーがもうこの世にいないということがただでさえ私にはピンときていなかったし、果てしなく大きな空の下で不気味なツンドラのただなかにいたので、ますますもってリアリティが希薄になっていた。とはいえ、配慮を欠いた質問だったのは間違いない。

外装をマット・ブラックに塗り替えられたフォードF-150ラプターの一群。やはりマット・ブラック外装のSHERPのATVが10台と、同じくUTVも何台か。それと、タンク車両(これもマットブラック)。そういうビジュアル的な違いを除くと、2020年1月末時点のウェスト・レイク・ランチの状態はモンスター・レイク・ランチだったときから特に変わっていない。

しかしすでに、なにやら尋常でない大プロジェクトが動き始めている。景観アーティストのジェイムズ・タレルや内装デザイン界の魔術師アクセル・ヴァーヴートやイタリア人建築家クラウディオ・シルヴァーストリンといった有名どころからの協力を得て、ウェストはここを、彼がいうところの「イージー・キャンパス」に造り替えようとしている。また彼らとは別に、ウェストは専属の建築家のチームを自らの下に置き、仕事でどこへ出張するときも同行させている。いつでもイージー・キャンパスの仕事にとりかかれるように。

このプロジェクトは常に進化の途中にあり、いまの段階でハッキリこういうものだとはとてもいえない。2016年に「精神が危機的な状態に陥った」ためUCLA病院に入院して(ウェストはこれが自身にとって大きな転機だったと考えている)沈黙期に入ったところから復活して以降、多方面にわたる彼の冒険的活動はわけのわからないところがある。それゆえにこそ現在においてかくも魅力的な存在たりえているのだともいえるが、やっているいろんなことが互いにどう関係しあっているかがナゾ。「断じて言うが、俺のなかに、もう1人別の俺がいるんだ」とウェスト。「キリストが俺を変えた」。

この記事のために彼といっしょの時間をすごしてわかってきたことに、ウェストの様々な活動は、いろんなしかたでもって、ここコーディで起きていることと繋がっている。ランチで飼っている羊からとったウールをイージーのアパレルの素材に使うというのもそうだが、でもそれはコトのホンの一部にすぎない。カニエ・ウェストは、自身にとってかつてなく大規模な冒険をやろうとしている。やりつつある。ウェスト・レイク・ランチはその実践の場といったところだ。

© Tyler Mitchell

米版『GQ』5月号の表紙に登場したカニエ・ウェスト

インタビュー DAY 1

2020年1月30日
ウェスト・レイク・ランチ内のキャビンにて

──それでは会話の録音を始めさせていただきます。

カニエ・ウェスト: 「コミュニケーションは音楽や食事やダンスといったノン・ヴァーバルな手段によっても可能だ。言葉を使うのはおよそ最低のやりかただと思う。俺たちは言葉というものにとらわれすぎている」

──建築のほうの話題に触れる前に、まずは服飾方面のことからうかがいます。最新の話を。

「新製品の開発をもう2年もやっている。アパレル関係の仕事はセラピーにもなるし、すごく楽しい」

──そのアパレル関係というのは、イージーの?

「そう。イージーでもカニエ・ウェストでも名前はなんでもいいが、自分のところでやっている。カラーパレットについて1時間も語ったり。そんなに根を詰めないで息抜きでもといわれるが、俺にとっては仕事がリフレッシュだ。俺が作るのは自分で身につけたいものだけだし、それらは同時にアートでもある。常にそうだったし、これからも。なぜなら俺はアーティストだから」

──それはつまり、音楽もふくめて……。

「俺がなにかを作れば、なんであれ、それはアートだ。あるいは、なにを言おうと。ここでの会話もふくめて」

――あなたはどうも自己模倣をしたがらないところがあるというか、常に変わり続けているように見受けられます。あるプロジェクトを進めていって、それが完成までこぎつけたとわかるときは、どういうカタチで……。

「なにごとも、これで完成形ということはない」

──ここワイオミング州コーディでの巨大複数年プロジェクトにそれをあてはめると、どういうことになりますか。なんとも実に野心的なというか……。

「俺の前で『野心的』という言葉は禁止だ。野心的。オマエごときがナマイキにできもしないのに大風呂敷を広げているといわれている気分になる。逆に燃えてくる。TVのインタビューを受けている若きヴィーナス・ウィリアムズになった気分だ」

──でも、「全ては永遠に未完成」のやりかただと、創作のモメンタムを低下させることになるのでは?

「ならここでハッキリ言っておくが、『時間と空間は有限』というのは凡人の発想だ。アーティストとは、自らスーパーヒーローたることを受け入れた人間のことだ」

──ドームを建ててその中に住もうとか、いまは建築方面にすっかり夢中のようですね。

「安藤忠雄アート・アイランドでジェイムズ・タレルの作品を見て『これに住むしかない』と思った。アクセルとは、ヒドゥン・ヒルズの自宅をやり変えるとき頼み込んで協力してもらって以来の親友どうしで、去年の俺の誕生日、いっしょにロデン・クレーターへいった。ジェイムズ・タレルが手がけた巨大プロジェクト。そこでタレルに会って、プレゼントをもらった」

──それは、どんなものだったんですか。

「スケッチ。新居のデザイン案だ。ジェイムズ・タレルがデザインする空間はピュアすぎて普通の人間は住めたものじゃないとアクセルが言ったから、俺はこう返した。『せっかくの誕生日になんてことをいうんだ』」

© Tyler Mitchell

インタビュー DAY 2

コーディ発ロサンゼルス行きのプライベート・ジェットの機内にて
2020年1月30日

「俺とコービーとは、互いに相手が他人じゃない間柄だった。俺は自分のバスケットボール版がコービーだと思っていたし、コービーは自分のラップ版が俺だと思っていた。自宅やオフィスから空港へいくとき使う道(編集者注:コービーほか8名の乗ったヘリコプターが墜落したラス・ヴァージェンス・ロード)があって、そこを通るたび決意を新たにしている。いまや俺の生き方は変わった。俺たちはヒューマニティのためのパラダイム・シフトをなし遂げつつあり、これは遊びじゃなく戦いだ。だからなんとしても勝ちにいく」

──あなたがクリスチャンとして再生を遂げるまでのストーリーを是非とも聞きたいのですが。

「毎週の日曜礼拝で仲間や家族といっしょにキリストについての歌を歌うようになってわかった。教会というのは最高レベルの癒し得られる場所だ。子供の頃から通いつづけて大きくなったことの悪影響だろうが、ほとんどのやつらは教会は裁きを受けるところだと思い込んでいる感じだ。それは違う」

──私が知っているかつてのカニエ・ウェストは、制度とか機関といったものによって管理されるのが大嫌いでした。まさかこんなふうに変わるとは。

「いったいどうやったら『イーザス』みたいなパンクなアルバムを作った野郎が『ジーザス・イズ・キング』を作れるようになるのか、ということか」

──というかむしろ、いかにしてクリスチャン・フェスティバルで主役をつとめるようになったかとか。

「俺としては神と自分とのパーソナルな関係を表現するまでだ。『歓迎されないかもしれないのに、なんでパリへなんか』といわれたところでファッションに対する俺の愛の強さは変わらないし、『聖書の言葉でガンジガラメに管理されてるぞ』と誰かが言っても、そんなのは神に対する俺の愛への妨げにはならない」

──今年は選挙の年だし、あなたのなかで信仰が政治思想にいかなる影響を及ぼしているかに興味があります。2020年のいまのカニエ・ウェストから見て、MAGA(Make America Great Again)ハットを被っていた頃の御自身はいかがですか。

「心のままに話すこと。感じたままに表現すること。いまの俺は、それ以外に『こうしてやろう』と思うことはない。自由になりたいとかもない。要するに、俺は俺、ということだ」

──でもセレブリティたるもの、「俺は俺」だけでは済まない立場にいると思いますが、それについては?

「アメリカのセレブリティはビビッてる! だからホンネをいわない。だが俺は彼らをディスる気はない。なぜなら自分もセレブリティの1人だし、セレブリティの知り合いが何人もいるから」

──まあ、世の中ってそういうものですよね。

「そうきたか。アフリカン・アメリカンの3人に1人が奴隷的な労働をさせられてるのは腹が立つし、アフリカン・アメリカンから成功者が出ると同じアフリカン・アメリカンがそいつをねたむのはもっと腹が立つ。俺が成功したとき言われたのは、自分が億万長者であることを公言してはダメだと。はあ? アホらしい。そんなんじゃ意味ない。俺たちはまだ不自由な世界に生きてるんだ」

──で、そうかと思うと、また他方では……。

「ここは俺から言わせてくれ。俺が言った『ジョージ・ブッシュは黒人のためには動いてくれない』は負け犬のセリフなんだそうだ。それじゃダメだから、俺なんかも毎日鏡に向かって自分に言い聞かせている。『お前は奴隷じゃない』。ロバート・デ・ニーロになったつもりで。アメリカの黒人は、メディアを通じて感情をコントロールされている。TVのやつらは人種を代表する存在として黒人のミュージシャンやアーティストやセレブリティを起用し喋らせてるが、あんなのはなんの効果もない。ヘタに感情的な繋がりをもてるぶん始末が悪いし、正味のところは白人のために働かせているようなものだ」

──「アメリカを再び偉大な国に」は態度として後ろ向きです。でもあなたは常に前向き思考の人ですよね。

「不動産を買ってるし。いまは、オバマが大統領だった頃よりも状況はマシだ」

──選挙に向けて、どうですか。興味はありますか。

「こんどは間違いなく投票する。周囲のやつらがどう言おうが俺の決めたやつに入れるし、俺のキャリアはもう終わりだとかぬかしてるやつらの言うことも関係ない。俺はもう終わり? 『ジーザス・イズ・キング』は1位になったじゃないか。そしたら、あのアルバムがなかったら終わってたとかいわれた。なんなんだ? 『ローリング・ストーンズ』は『ジーザス・イズ・キング』なんてたぶんもう忘れられているだろうと書いていた。俺らがガキの頃はそこらじゅうの家で音楽が鳴ってたが、『ジーザス・イズ・キング』はそんなふうにみんなが聴いた。あんなのは他にない。かつて奴隷だった頃の俺たち黒人は、キリストのことを歌ったスピリチュアル・ソングとともに生き抜いた。R&Bやロックンロールで金を稼ぐことを覚えて、それからこんどは人を殺しにいく歌だとか、よその奥さんといっしょにいる歌だとか。俺もその穴にはまりかけた」

──あなたの音楽はサウンド的に常に進化してきている一方で、歌詞の意味的にはアメリカン・ミュージックのルーツへ戻っていますね。教会へ。信仰へ。

「そうだ。教会。スピリチュアルの場だ」

<後編へ続く……>

文・ウィル・ウェルチ Will Welch
翻訳・森慶太 Keita Mori

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