ヒンドゥー・ジャワ文化を受け継ぐ天空の寺院、チュト(Candi Ceto)。霊峰、ラウ山(標高3265メートル)の中腹にあり、涼風が酷暑に疲れた体に心地いい。割れ門から段々畑を遠望すれば、気分は古代ロマンの世界。そんな至福の一時を過ごしてみようと、古都ソロ(スラカルタ)から西を目指した。
ソロ観光の定番といえば、マンクヌガラン王宮やバティック村などがあるが、いい空気を吸いたいと思って地元の友人に相談してみた。「郊外に絶景スポットがないかな」と。間髪を入れず、戻ってきたアドバイスは「チュト寺院」。ジョクジャカルタからの観光ツアーもあるようだが、ソロなら中心街から40キロほど。半日旅行にはちょうどいい距離だった。
当日はあいにくの曇り空だったが、30分ほどで市街区を抜け、水田を眺めながらのバイク旅が始まった。やがて風景は茶畑へと変わり、涼しさが増してくる。交通量も少なく、大自然に囲まれた田舎道を走るのは実に気持ちいい。
快適なツーリングを楽しんでいると、路上給油店の店員が「地元自慢の滝が近いから、ぜひ日本の人たちにも伝えて」という。案内の看板に従って上っていくと、第1目的地となる「アイル・テルジュン・ジュモグ(Air Terjun Jumog)」にたどり着いた。
観光バスも入れる大きな駐車場を完備し、プールもある立派な観光スポットだ。訪れるのはローカルの人が多く、子どもたちは水遊びを楽しみ、大人は飲み食いとおしゃべりに余念がない。そんな平和な光景を横目で見ながら遊歩道をさらに上っていくと、いきなり視界が開け、滝が見えてきた。
マイナスイオンをたっぷり浴びながら滝壷に向かおうとすると、ひとりの少年が近づいてきた。「コンニチハ。アリガトウゴジャイマス」。ゲームの「ポケモン」で覚えたという日本語をありったけ並べ、にっこり笑って歓迎してくれた。
さて、地図でみると滝からチュト寺院まではあとわずかだった。が、甘かった。勾配が強すぎ、非力な100ccエンジンは悲鳴を上げる。そしてついに力尽きてしまった。困り果てたが、周囲を見渡せば茶畑の〝大海原〟。高原野菜がびっしりと植えられたプランテーションを見ていると、心が和んでくる。
結局、バイクはジグザグ走行でなんとか登り切ってくれ、ついに最終目的地のチェト寺院に到着した。
鳥の声。風の音。そしてアニミズムの影響を受けたという遺跡に佇めば、急斜面をスロットル全開で高度を上げてきた道中の苦労など吹き飛ぶ。
意外にも観光客は決して少ないとは言えなかったが、異界を切り開くように立つ割れ門を見上げれば、ここがジャワであることを忘れるよう。酷暑の下界から切り離された、まさに天空の聖地だった。(長谷川周人、写真も)
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March 20, 2020 at 08:27AM
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