-マイクロマシンを使って細胞を運んで並べ、生体組織を人工的に組み立てる-
国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)バイオメディカル研究部門【研究部門長 大西 芳秋】次世代メディカルデバイス研究グループ 山添 泰宗 主任研究員、栗之丸 隆章 研究員と、セルメカニクス研究グループ 中村 史 研究グループ長(東京農工大学併任)は、生体組織と類似した人工の組織を構築するためのマイクロマシンを開発した。
生体組織を模倣した人工組織は、けがや病気で損傷した組織の治療や動物実験に替わる新薬候補物質の評価に有用である。今回、われわれは“マイクロマシンを利用して人工組織を構築する”という新たなアプローチを提唱した。この独自のアイデアをもとに、望みの数・形状・タイミングでさまざまな場所に細胞を輸送し配置できるマイクロマシンを開発した。このマイクロマシンを用いて細胞を操作すれば、従来の方法では困難であったさまざまな処理を行うことができ、より自在な人工組織構築の実現に貢献すると期待される。
なお、この成果の詳細は、2019年11月28日(英国時間)に学術誌Materials Horizonsにオンライン掲載された。
人工組織構築のためのマイクロマシンによる細胞操作
近年、iPS細胞やES細胞などの幹細胞をはじめさまざまな種類の細胞を取り扱えるようになった。これらの細胞を用いて、生体組織の細胞の配置を模倣し、人工組織を構築する研究が活発化している。この人工組織は、損傷した組織の機能を肩代わりできる移植用の組織や動物実験に代わる新薬開発のための試験用の組織としての利用が期待されている。
これまで人工組織を構築するためにさまざまな方法が報告されている。しかし既存の方法は、一度の細胞配置操作により人工組織を完成させることや、平たんな基板上に組織を構築することを前提としている。そのため、作り終えた人工組織に対して、後日、新たな細胞を追加するなど自由に手を加えることができない。また、凹凸のある複雑な形状の表面や閉ざされた空間の内部で組織の構築を行うこともできない。
従来法のさまざまな制約を取り除き、より自在に組織を構築するには、単なる従来法の改良ではなく、これまでとは全く異なる新たな発想が必要であった。
産総研では、医療分野で利用できるマイクロマシンの開発に取り組んできた(2017年11月17日 産総研プレス発表)。今回、従来の人工組織構築法のさまざまな制約を取り除き、より自在な組織構築を実現するためにマイクロマシンを利用することを考案し、人工組織の構築のためのマイクロマシンの開発に取り組んだ。
なお、この開発は、独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費助成事業「基盤研究(C)(平成 29年度~平成 31年度)」による支援を受けて行った。
今回開発したマイクロマシンは人工組織の構築に利用するため、以下の特徴を備えている。
- 磁力によりマイクロマシンの動きを遠隔操作できる。
- 細胞の捕捉、目的地への輸送、目的地での細胞の積み下ろし、ができる。これらの操作のために細胞に特定の処理を施す必要は無く、また、一連の操作は細胞に障害を与えない。
- 大きさや形状を自在に変えることができ、望みの数と形で細胞を目的地に供給できる。
図1に開発したマイクロマシンの概要を示す。本体部分は細胞に無害な血清アルブミンを原料とし、磁力で遠隔操作できるように磁性ナノ粒子を含有させた。マイクロマシンは、はじめは細胞を捕まえ、目的地に到着後は細胞を離す必要がある。この細胞の「捕捉-脱離」を実現するために、表面に疎水相互作用で細胞膜に弱く結合する細胞捕捉パーツを結合させた。
図1 今回開発したマイクロマシン
図2に、開発したマイクロマシンを用いた「細胞の捕捉-輸送-積み下ろし」の一連の細胞操作の結果を示す。磁石を用いてマイクロマシンを細胞が存在する場所に誘導し、接触させて細胞を捕捉した。その後、捕捉した細胞を目的地に輸送した。目的地での細胞の積み下ろしは、マシンで捕捉した細胞を目的地表面に一晩密着させることで接着させた後、接着した細胞をその場にとどめつつ、マシンだけを回収して行った。同様の手法で、凹凸のある複雑な形状の表面や、培養容器内や微小な流路内の側面や天井面などさまざまな場所に細胞を供給することができる。
図2 マイクロマシンを用いた細胞の目的地への輸送
生体組織を模倣した人工組織を構築するには、複数種の細胞を任意の配置で並べて組織を組み立てていく必要がある。今回開発したマイクロマシンの有用性を示すために、異なる細胞種から成る2次元や3次元の細胞組織構造体を作製した(図3)。
図3左に2次元組織についての結果を示す。リングの形に成型したマイクロマシンを用いて、1種類目の細胞(繊維芽細胞、あらかじめ赤色に染色している)を基板上に配置した。その後、2種類目の細胞(間質細胞、緑色に染色)を捕捉した円形のマイクロマシンをリング内部に誘導し、リング内に細胞を配置した。今回は2種類の細胞を用いたが、同様の手順を繰り返して段階的に細胞を配置して複雑な組織を作製することができる。また、細胞の上に別の細胞を積層することで3次元組織も構築できる。図3右では、大きな円形のマイクロマシンを用いて1種類目の細胞を配置した後、2種類目の細胞を捕捉した小さな円形のマイクロマシンで1種類目の細胞の上に積層して、3次元の細胞組織を作製した。
図3 マイクロマシンを利用した2次元や3次元細胞組織構造体の作製
このように、今回開発したマイクロマシンにより、自在に細胞を配置し、人工組織を構築することができる。また、望みのタイミングで細胞を追加できるため、一度作り終えた組織に対して、必要に応じて新たに細胞を追加し、柔軟に組織を改良することができる。本マイクロマシンは、従来法では困難であったさまざまな処理を可能とし、より自在な組織構築の実現に大きく貢献すると考えられる。
今後は、開発したマイクロマシンを用いて移植治療や薬剤評価に役立つ、より生体組織に類似した高度な人工組織の開発を行う。また、炎症性腸疾患の細胞治療への応用を図る。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
バイオメディカル研究部門 次世代メディカルデバイス研究グループ
主任研究員 山添 泰宗 E-mail:hironori-yamazoe*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
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February 11, 2020 at 11:23PM
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