2022年07月29日13時04分
【AFP=時事】フランス人の火山学者モーリス・クラフトと妻カティア・クラフトは、火山への愛で結ばれ、そのために命を落とした──。1991年の雲仙・普賢岳の噴火で亡くなったクラフト夫妻のドキュメンタリー映画『Fire of Love(原題)』が、このほど米国で公開された。(写真はクラフト夫妻が執筆した書籍と火山研究に使用していた物品)
溶岩が噴き出る火口近くや内側で撮影された、魅力的で、恐ろしくもあり、時に奇抜な映像で構成された作品は、米誌ナショナル・ジオグラフィックと、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の米配給元として知られる独立系配給会社ネオンが手掛けた。
上映館数は少ないものの絶賛されており、すでに米サンダンス映画祭など複数の映画祭で賞を受賞している。
セーラ・ドーサ監督は、アイスランドの火山をめぐる別のドキュメンタリー作品を制作中、2人の残した「壮大な映像」に偶然出会った。そして「レンズの向こうから放たれる、他に類を見ない愛」に引き付けられた。
クラフト夫妻は25年にわたり、共に世界中の活火山を旅して、約20冊の本を執筆、長編映画5本を制作した。数え切れないほどのテレビ番組に出演したり、講演を行ったりもした。
だが、その名を世界に知らしめたのは恐らく、200年近く眠っていた普賢岳が噴火した際に犠牲になったことだろう。91年の噴火では、大火砕流が東側の山麓を襲い、甚大な被害をもたらした。
『Fire of Love』はこの悲劇で始まり、そして幕を閉じる。だが、映画の大半は、夫妻と火山の「三角関係」に割かれている。
ドーサ監督はAFPに、「火山用語を通して語られる一種の神秘的なラブストーリーを描きたかった」と語った。「それこそ2人を結び付けたものであり、2人の関係の推進力、燃料となった」
■「向こう見ずな愛」
夫妻のうち、モーリスのほうが外交的だった。酸性の湖にこぎ出したり、真っ赤な溶岩流をカヤックで下ろうと計画したりと、見るからにスリルを求めていた。ただ、カティアも危機に直面した際には夫と同様勇敢だった。
危険を恐れぬ夫妻の研究手法には、一部の学者から批判もあった。しかし、「正直なところ、彼らが無謀だったとは思わない」とドーサ監督は語る。「究極的には、2人とも深く意義ある人生を送り、意義ある死を遂げた。愛の追求そのものだった」
「向こう見ずな愛だったと言う人も多いだろう。でも、私たちは、これが2人の生きる道だったのだと感じた」
クラフト夫妻は、1980年の米北西部セントヘレンズ山の噴火や、その5年後にコロンビアで最大2万5000人が犠牲になったネバドデルルイス火山の惨事を目の当たりにした後、避難計画の改善を各国政府に働きかける活動へと研究方針を転換した。
「それこそ、2人が91年に亡くなったときにやろうとしていたことだ」
■「慰め」
ドーサ監督は、この映画を通じて2人の活動を現代の観客に知ってもらうだけでなく、地球が単なる「利用価値のある資源」ではないことを人々に思い出してほしいと願っている。
「地球の生命力や感性に関するこうした物語は、搾取に対抗するためにますます重要になる」
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)下での映画制作については、「カティアとモーリスが、未知の世界をどう切り抜けるか、恐怖をどう和らげるかを教えてくれた。私たちにとって、またとない慰めとなり、逃げ場となった」と振り返った。
映画には、赤く輝く溶岩や、まるで地球のものとは思えない火山の風景を、60~70年代フランスで流行した映画運動「ヌーベルバーグ」を思わせる独特のスタイルでとらえた美しい映像が多く登場する。
夫妻は20冊近い著作でも、ヌーベルバーグを代表するフランソワ・トリュフォー監督の映画で使われた遊び心あふれるナレーションを連想させる表現を多用していた。ドーサ監督は、このスタイルをドキュメンタリーのナレーションにも取り入れた。
「ヌーベルバーグの優れた物語装置の一つが、三角関係だ」とドーサ監督。「それが適切な手法に思えた。カティアとモーリスの関係には実際、『第三者』が介在しているように感じた。つまり、火山という第三者だ」と語った。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕
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