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Friday, July 1, 2022

オランウータンの奇妙な生態…彼らが「土を食べる」切実な理由 - 株式会社 山と溪谷社

河合隼雄学芸賞受賞・異色の土研究者が、土と人類の驚異の歴史を語った『大地の五億年』(藤井一至著)。土の中に隠された多くの謎をスコップ片手に掘り起こし、土と生き物たちの歩みを追った壮大なドキュメンタリーであり、故池内紀氏も絶賛した名著がオールカラーになって文庫化されました。

「土は生命のゆりかごだ!快刀乱麻、縦横無尽、天真爛漫の「土物語」」仲野徹氏(大阪大学名誉教授)。「この星の、誰も知らない5億年前を知っている土を掘り起こした一冊。その変化と多様性にきっと驚く」中江有里氏(女優・作家・歌手)。

本書から一部抜粋して紹介します。

熱帯雨林はサルの王国である。ニホンザルを知っている日本人からすると、「サルなんて世界じゅうにいるのでは?」と思いがちだが、オランウータン(インドネシア、マレーシア)、ゴリラ、チンパンジー(ともにアフリカ)はみな熱帯地域に分布しているし、ヒトの祖先もアフリカにルーツがある。

熱帯雨林には果物や昆虫を食べる多様なサルが存在し、ボルネオ島だけで50種が棲んでいる。ところが、なかなか会えないのがオランウータンだ。警戒心が強いことに加え、最近では生息地の減少が個体数の減少に拍車をかけている。

オランウータンはインドネシア語でorang-utan、「森の人」を意味する。私たちと同じヒト科であり、分岐したのはほんの(?)1700万年前である。オランウータンの祖先は1000万年以上前にアフリカを旅立ち、東南アジアにやってきた。

海水面が今よりも100メートルも低かった氷河期、マレー半島とボルネオ島が陸でつながった広大な平野・スンダランドに生息した。その後、海水面の上昇によってスンダランドは海で隔てられ、今日ではボルネオ島とスマトラ島、そして世界各地の動物園にのみ生息している。

 

オランウータンの奇行

樹の上に棲むオランウータンの大好物は果物の王様・ドリアンである。ドリアンはとにかく臭いが、栄養分が多く精力剤の効果もある。

ドリアンの樹木は、人の丈ほどの温帯の果樹の姿とは異なり、熱帯雨林の中にあっても立派な高木層を構成する。貧栄養な酸性土壌に育ちながらも、栄養たっぷりの果実をつくる。特にボルネオ島にはドリアンの固有種が多く存在する。

一説では、ドリアンの多様化がはじまった時期とオランウータンの出現はちょうど同じ時期だという。美食家のオランウータンにただ果実を提供するだけでなく、果実を運んでもらい、種子を拡散させるドリアンの戦略が成功したことを意味する。被子植物(ドリアン)と種子散布者(オランウータン)の協力が熱帯雨林の多様性を支えている。

そんな森の人・オランウータンは、地面に降りてくるところがしばしば目撃されている。無人カメラで撮影したところ、オランウータンが土を食べていたというのだ。調べてみると、この泥はナトリウム、つまり塩を多く含むことが分かった。

動物は汗などでナトリウムを失いやすいにもかかわらず、植物に含まれるナトリウムは少ない。私たち人間がスポーツの間に塩飴をなめたり、スポーツドリンクを飲むように、オランウータンは樹上から「塩場」へ降りて行って、ナトリウムを積極的に摂取しているようなのだ。

海から離れたところに棲む動物たちは、それぞれ塩を獲得する知恵を持っている。

 

土に依存する動物たち

動物が土を食べる行動には、ミネラルの補給、整腸剤・解毒剤としての意義があると知られている。アマゾンのサルのなかで、雑食や昆虫食のものは土を食べないが、フルーツばかりを食べるケナガクモザルは土を食べるという。

フルーツなどで糖分を過剰に摂取すると、アシドーシス(発酵によって脂肪酸がつくられる現象)によって血液が酸性になってしまうため、酸を中和できるミネラルや粘土を補給する必要があるのだ。

この例とは少々異なるが、私も土を食べたことがある。初めてのタイ調査でミカン(タイ特産のミカンでソムオーという)を食べすぎ、下痢になった時のことだ。困った末に、片言のタイ語で「トンシーア(=下痢)」と話すと、現地の農家のお兄さんがニヤニヤしながら「この土を食べると治る」と言う。半信半疑でやけくそになって食べたところ、治ったのだ。

その後、この土の粘土鉱物を分析してみると、下痢止め薬にも使われるスメクタイト粘土が多量に含まれていた。土を食べたのはこれが最初で最後だが、私も土食うサルの一種なのかもしれない。(注:土にはエキノコックスなど感染症のリスクもあるため、滅菌処理をされた土を除いて食べてはいけません)

私たち人間は日ごろ、土を直接食べることはないが、農業というなりわいを通して土壌への依存度が高い動物の一種である。多くの生き物たちが土に身体の仕組みを変化させてきたのとは異なり、人間は土の仕組みを利用することで繁栄してきた。

地質学的な時間スケールで進化してきた生き物たちとはまったく異なるスピードで〝適応〟できたのは、農耕の技術や知識の発達によるものだ。

 

※本記事は『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(山と溪谷社)を一部掲載したものです。

『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』

河合隼雄賞受賞・異色の土研究者が語る土と人類の驚異の歴史。 土に残された多くの謎を掘り起こし、土と生き物の歩みを追った5億年のドキュメンタリー。


『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』
著:藤井 一至
価格:1210円(税込)​

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【著者略歴】

藤井一至(ふじい・かずみち)

土の研究者。1981年富山県生まれ。 2009年京都大学農学研究科博士課程修了。京都大学博士研究員、 日本学術振興会特別研究員を経て、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員。 専門は土壌学、生態学。 インドネシア・タイの熱帯雨林からカナダ極北の永久凍土、さらに日本各地へとスコップ片手に飛び回り、土と地球の成り立ちや持続的な利用方法を研究している。 第1回日本生態学会奨励賞(鈴木賞)、第33回日本土壌肥料学会奨励賞、第15回日本農学進歩賞受賞。『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)で河合隼雄賞受賞。

■関連リンク

「土」から巡る驚異の5億年、「土」と「生き物」の未来。@Lateral ※オンライン

7月16日(土)21:00~
https://twitcasting.tv/lateral_osaka/shopcart/160597

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