評者=服部小雪(イラストレーター)
コミックエッセイで知られる作者の初の小説。5人の女性の山をめぐるショート・ストーリーが収められている。
山小屋でのアルバイトがきっかけで、壮大な山の世界に触れた宇井さんは「どうせ、いてもいなくても生きてるんだから、生きていてもいいのかも。ややこしいけれど、これが希望って気持ちなんだろうか」と、生まれて初めての感覚に包まれる。
専業主婦の敏子は、家庭で威圧的な態度を取る夫の機嫌を損ねないよう、息の詰まりそうな家庭生活を送っている。唯一、自分を取り戻すことができるクライミングジムで、信頼する女友達に本心を打ち明けた彼女は、新たな人生を歩みだす。
思いがけない妊娠と結婚に心が揺れ動くめぐみさん、年下の男性に恋をする志村さん。高校生の六実の、父との日常。どれも今日を普通に生きる人間の物語だ。テンポの良い会話や、ちょっとした描写の中に生々しい空気感があり、登場人物が、確かに人生のどこかで出会った誰かのような気がしてくる。
著者はシンプルなマンガで巧みに人の心を描き出してきたが、小説でもその素直な表現と、絶妙な間が生きている。
「パスカルは、葦の根が図太く地下で張っていることを知っていただろうか」
一筋縄ではいかない心の複雑さを抱えて、人は山に向かう。わたしたちが山で挨拶を交わすのは、どこかでつながっている者同士だからなのかもしれない。
(山と溪谷2022年7月号より転載)
からの記事と詳細 ( 山に向かう5人の女性たち『マウンテンガールズ・フォーエバー』【書評】 - 株式会社 山と溪谷社 )
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壮大な
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