自社に蓄積されたファーストパーティーデータの活用法として、データを共同利用するという使い方を進める企業もある。九州に本拠を置くディスカウントストアのトライアルホールディングス(トライアルHD、福岡市)がその1社だ。データを共同利用して何が得られるのか──。トライアルHDと、ともに研究・開発を続けるメーカー各社の取り組みや狙いを探った。
「トライアルHDが提供してくれる、期間限定で閲覧可能だった加工食品の販売データなどと、日用品の販売データなどを突き合わせて分析したところ、花王の『歯磨き粉』と日本ハムの『ソーセージ』の売れ行きの相関が高いことが分かった。データによれば、花王の歯磨き粉を買う顧客は、他の商品と比べて、日本ハムのソーセージを買っていく傾向が見られる」
花王グループの販売とマーケティングを担う花王グループカスタマーマーケティング(東京・中央)のチェーンストア部門JBP推進部マネジャーの澁谷拓氏はこう語る。自社の商品や競合する他社の商品の売れ行きをデータ分析しているだけでは、まずたどり着けない“売れる商品の組み合わせ”の可能性を発見したわけだ。澁谷氏らがこの相関を発見したのは2022年5月初めのこと。発見した場所は、福岡県宮若市にある研究開発拠点「MUSUBU AI」である。
MUSUBU AIとは、トライアルHDが、宮若市から借り受けた旧吉川小学校の校舎をほぼそのまま利用して、トライアルグループのITエンジニアとメーカー、卸のエンジニアなどが共同でリテールAI(人工知能)の開発を進める拠点として、21年7月にオープンした施設だ。校舎内にあるかつての教室を、参加するメーカーや卸に研究開発拠点として提供しつつ、メーカーや卸、それにトライアルグループのエンジニア同士が自由に議論できる場も設けて横のつながりを強化し、新しい発見や着想を得られる場にしようとしている。2022年5月17日時点で、トライアルグループの他に、サントリー酒類、日本アクセス、食品商社のヤマエ久野、花王グループ、コカ・コーラ ボトラーズジャパン(東京・港)、カルビー、アース製薬、P&G、日本ハム、化粧品や一般医薬品卸のPALTACなどメーカー・卸12社が入居(参加)している。
サントリー酒類は「金麦」の再購入促進に成功
トライアルHDはこれまで、九州や関東エリアに、タブレット搭載のスマートショッピングカートやAIカメラ、店内に設置した大型デジタルサイネージなどを備えたスマートストアをいち早く展開。流通全体でリテールAIを推進するという趣旨に賛同するメーカーや卸とともに、店で得られたユーザーの過去の購買履歴や商品ごとの売り上げデータなどを分析して、店頭でさまざまなマーケティングの取り組みを実施してきた。
例えばサントリー酒類は22年初め、こうしたデータを分析し、トライアルのいくつかのリアル店で、「金麦」を1回購入したけれど次からは購入しそうにないユーザーを対象に、クーポンなどを使って再度購入を働きかけるマーケティング施策を展開した。その結果、「他の小売店では前年同期比で金麦の売れ行きに大きな差が見られない中、施策を実施したトライアルのリアル店では、かなりの数のユーザーの引き留め、つまり金麦を再度購入していただけることに成功した」(サントリー酒類広域営業本部部長兼酒類DXプロジェクトサブリーダー兼リテールAI推進チームシニアリーダーの中村直人氏)という。
トライアルHD自身も、リアル店の中に設置した複数のデジタルサイネージに、同一内容を一斉配信する取り組みを進めてきた。例えば、店内で作っている唐揚げやピザが出来上がったら、「出来たての唐揚げが今買えます!」という具合に、来店客すべてに購買を促す情報をデジタルサイネージに一斉に配信するわけだ。情報を一斉配信した商品のうち、いくつかの商品の平均売り上げは、サイネージ未設置店での同じ商品の平均売り上げを2倍近く上回ったという。
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