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スポーツ 東京2020順風満帆だった数年前には自分で想像できなかったほど、栄冠への道は険しかった。男子66キロ級の阿部一二三。決勝でマルグベラシビリを破り、妹の詩と同じ日に金メダルを獲得。感慨深い頂点に立った。
強引な体勢でも投げ切れる担ぎ技は、天性の肩の柔らかさと、猛稽古で培ってきた体幹の強さが礎。早くから東京五輪のホープと目され、2017、18年の世界選手権では一本勝ちを重ねて連覇を遂げた。だが、徐々に国内外からの徹底マークに苦しんでいく。「東京五輪まで負けなしでいきたい」。それは理想でしかなかった。
瞬発的に繰り出す技の威力は抜群でも、組み止められると攻め手が狭まった。以前は腰を引いて構える海外選手が多かったが、密着戦を挑まれるシーンが増えた。ライバル丸山城志郎(ミキハウス)が得意とするともえ投げなど、捨て身技の受けにはもろさも出た。
「逸材」と言われ続けてきたが、本人はそれほど才能に恵まれたとは思っていない。座右の銘は「努力は天才を超える」。ひたむきに課題を見詰めた。
捨て身技を食わない重心移動を体に染みこませ、昨年12月の丸山との五輪代表決定戦では24分、極限の緊張感の中で攻撃をしのぎ切った。担ぎ技の対となる足技を磨いて攻めの幅を増やし、以前は薄かった連続技への意識も高めた。その過程では今大会60キロ級で金に輝いた所属先の先輩、高藤直寿の助言も仰いだ。
優勝が決まった瞬間、表情を変えず少し上を向いた。野望がある。尊敬する野村忠宏さんを超える五輪4連覇。この金メダルは、一二三が描く壮大な夢への真のスタートでもある。(了)
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