謎が謎を呼ぶ。
National Geographicsによれば、国際的な天文研究チームがニュータイプの「高速電波バースト」(Fast Radio Burst、以下FRB)を発見しました。FRB自体発見されてから歴史が浅く謎に包まれた現象なのですが、今回観測された「FRB 20200120E」には既知のものと違う特徴があり、従来の仮説が通じなくなっています。
「FRBはマグネター由来」と思いきや
そもそもFRBとは「数ミリ秒で太陽の3日分に相当する」という強いエネルギーが放出される現象ですが、その発生メカニズムはまだよくわかっていません。何しろ初めて発見されたのが2006年だし、より頻繁に観測できるようになったのはカナダにある電波望遠鏡CHIME(Canadian Hydrogen Intensity Mapping Experiment)が稼働した2017年以降で、今までに観測された現象は1,000件程度です。それでも一応仮説はあって、超新星爆発後にできる極めて強い磁場を持った中性子星「マグネター」が発するものだという説が有力です。
マグネターは太陽の質量の8〜30倍の大きな恒星が崩壊して形成されることで強い磁場を得た星、とされています。といっても既知のマグネターをリスト化したMcGill Magnetar Catalogに載っているのも30個のみと、これまたレアな存在。それでも2020年に銀河系内で見つかったFRBがマグネター発らしいと絞り込まれたことで、少なくともFRBの起源のひとつには違いないと考えられるようになりました。
マグネターがいなさそうな場所から来てた
でもCHIMEで2020年から2021年にかけて計4回観測されたFRB 20200120Eのデータを研究チームが分析した結果、それらはマグネターが存在しないはずのエリアで発生したものと結論付けられました。5月24日にarXivに掲載された論文で、チャルマース工科大学のFranz Kirsten氏らはこう書いています。
我々はFRB 20200120EがM81銀河の球状星団と関連していることを決定的に証明し、よって既知の銀河系外FRBより40倍近くにあることを確認した。
M81銀河は地球から約1200万光年の距離にあり、FRB 20200120Eの位置は約1170万光年とされています。「球状星団」は宇宙のあちこちにありますが、どれも宇宙そのものと同じくらい古い存在だと考えられ、sciencealertによれば、その中の星々は「同じガスの雲から同時に形成され、小さな町と同様、静かな生涯をともにまっとうしていく」者たちです。
それに対しマグネターは比較的短命で、質量の大きい星から形成されるはずなので、球状星団の中に混ざって存在することは考えにくいんです。この研究に参加しているBryan Gaensler氏は、「球状星団で高速電波バーストを見つけた! 高速電波バーストがあるなんて決して思われてなかった場所だ。何が起こってるんだ?」とツイートしてます。
We’ve found a fast radio burst in a globular cluster! This is definitely not a place fast radio bursts are expected to live.
Just what is going on?? https://t.co/Ss0gO0hEU4pic.twitter.com/ZqHuEXNaS0
— Bryan Gaensler 📡🧲 (@SciBry) May 25, 2021
発生源はいろいろあるのかも?
つまり、FRBはマグネターから来ると思ってたのに、マグネターが存在しえない場所で見つけた、ということです。言い換えれば、バズってる謎のTikTok主の居場所を探っていったら物静かな老人しか住んでない離島に行き着いた、みたいな感じでしょうか。
ありえない場所から電波が来た!となるとつい、地球外生命体のメッセージでは?と妄想が広がってしまうんですが、Kirsten氏らはもっとプロっぽいいくつかの仮説を提示しています。ざっくり言うとふたつの考え方です。
まずひとつめは、マグネターは超新星以外の現象からも生まれるのではないか、という考え方です。球状星団にはたくさんの天体があり、ミリ秒パルサーなどの中性子星も多く発見されています。ひとつひとつの星の質量は小さくても、白色矮星が他の星または白色矮星との相互作用で質量を得て、中性子星になる可能性もある、というのがひとつの主張です。いわば「別におじいさんおばあさんがTikTokやっててもいいじゃん、ネタは豊富だし」という感じですね。
もうひとつは、FRBがマグネター以外の天体に由来する可能性です。上の論文では、FRB 20200120Eはミリ秒パルサーやコンパクト連星からの巨大パルスであるかもしれないと書かれてます。つまりバズる方法はTikTokだけじゃなくて、TwitterとかYouTubeとかFacebookとか、他にもあっていいんじゃないかみたいな話です。
いずれにせよ、今まであった仮説が修正を迫られそうです。幸いFRB 20200120Eは地球から近く、繰り返しバーストしてもいるので、データは豊富にあるはずです。研究者の皆さんの分析によって、これから謎が解明されるかもしれないし、逆にもっと深まるかもしれませんが、どちらにしても楽しみです!
Source: arXiv via National Geographics、sciencealert、McGill Magnetar Catalog
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