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Tuesday, March 23, 2021

トヨタSH滑川剛人「もう1つの道」主審の夢追う - We Love Sports - スポーツコラム - ニッカンスポーツ

オンライン取材で思いを語るトヨタ自動車SH滑川剛人
オンライン取材で思いを語るトヨタ自動車SH滑川剛人

日本ラグビー界に、壮大な夢を追う男がいる。

トップリーグ(TL)で開幕4連勝を飾っている、トヨタ自動車のSH滑川剛人(31)。3月23日、サントリーとの全勝対決(27日、パロマ瑞穂ラグビー場)に向けたオンライン取材で入団9年目は力を込めた。

「(同じSHで4試合連続先発している)茂野(海人)がどこまでやってくれるか分かりませんが、仕事を果たした後に自分の仕事が待っている。いい結果を獲得できたらと思います」

6日の第3節ホンダ戦同様に途中出場を想定し、役割の遂行に焦点を当てた。

ここまでは“よく聞きそうな談話”だ。だが、同じ取材でこんな言葉が出た。

「2023年、2027年のW杯にレフェリーとして、もちろん主審として、初めて(元トップリーガーの)日本人として立つのが自分の使命。それをやることが日本協会、日本人選手の、もう1つの道になる」

今、この男は選手と、レフェリーを両立している。

近鉄-コカ・コーラでスクラムを見つめる滑川剛人レフリー(右から2人目)(2021年3月20日撮影)
近鉄-コカ・コーラでスクラムを見つめる滑川剛人レフリー(右から2人目)(2021年3月20日撮影)

始まりは約1年前。日本協会とチームからレフェリーの道を打診された。数年前から声をかけられていたが「自分は選手をやりたかった」と固辞。それでも熱心な誘いに腹をくくった。

「『なんで自分なんやろ?』って考えましたが、大学時代からレフェリーと、よくしゃべっていたのが大きかったのかな」

桐蔭学園高(神奈川)から帝京大と強豪校で成長し、U20(20歳以下)日本代表などを経験。世代トップのSHとして、ラグビー界に広く知られた存在だ。

オンライン取材のわずか3日前。3月20日は大阪・花園ラグビー場にいた。

トヨタ自動車の試合がない週末。TL2部相当のトップチャレンジリーグで近鉄-コカ・コーラの主審を務めた。滑川がレフェリーとしてこだわる部分が、随所に見られる80分だった。

〈1〉コミュニケーション

主審が選手と頻繁に意思疎通を図る点は、ラグビー独特の文化。例えば反則の位置に立つ選手がいた場合、先に声をかけて正常な位置に導き、試合を流す場面などがよく見られる。この試合では滑川が近鉄の元オーストラリア代表SHゲニアらと、こまめに話しているシーンが印象的だった。

「ストレスを(選手が主審に)かけるより、話し合って解決するなら、その方がいい。『(ボールを)さばけるよね? だから吹かなかったよ』とか『実際どうだった?』とか聞いてあげて『僕にはこう見えたよ』と伝える。そうするといいプレーが生まれる。(足りないのは)英語の語学力。でも、トヨタの外国人選手とのやりとりもそう。自分の意思を単語でつなげると、分かってくれている」

〈2〉「勘」を極める

正確な判定のために不可欠な部分がある。滑川は目標のレフェリーを掲げた。

「(19年W杯日本大会でも吹いたオーストラリアの)ニック・ベリーだったりは、絶対にトライを見ている。絶対に見逃さない。僕もトライの1メートル以内には追いついて、TMO(ビデオ判定)は一切使いたくない。選手として持っているセンス、勘。そこを突き詰めてやっていきたい」

〈3〉スクラムの判定

SHである滑川は「正直難しい」と口にする。それでも多くのFWと話すことで見えてきた部分がある。

「組んでいる人の方が(スクラムのことを)分かる。だから『試合前に僕に情報をくれ』と伝えます。『相手に文句を言うんじゃなく、僕に情報をくれ』というスタイルです。ただ最近、フロントロー(FW第1列)もよく分かっていない部分があると知りました。いろいろな試合を(同僚の)プロップと見る。『これはどうなの? 僕はこういう判定かな』と言うと『僕、組んでいないから分からないんですよね』と言われることがある。スクラムに勝った、負けた-は、SHだから一番近くで見ている。(基本的に)勝った方に手を挙げる。それが明確な基準じゃないかなと思う」

「レフェリーとしての自分」は「選手としての自分」に生きている実感がある。開幕節の東芝戦では強く口調で、味方を諭した。

「1つの判定で負ける。それを守れば勝てる。そこの意識はレフェリーをやって、かなり上がりました。(両方やるのは)面白い。選手の時にチームに貢献できることも多い。(スケジュールが)しんどいっていうのはありますが、自分の体にはそれが合っている」

レフェリーとしての「面白さ」とは-。「面白さ…。何だろうな…」とつぶやき、冷静に言葉を発した。

「選手がストレスを感じていないこと(時)が『面白いな』って思います」

その尊い挑戦は、次世代の道標となる。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

近鉄-コカ・コーラで主審を務めた滑川剛人レフリー(中央)(2021年3月20日撮影)
近鉄-コカ・コーラで主審を務めた滑川剛人レフリー(中央)(2021年3月20日撮影)

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは西日本の五輪競技やラグビーが中心。18年ピョンチャン(平昌)五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを担当し、19年ラグビーW杯日本大会も取材。

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