急速に進歩してきた半導体とネットワークの限界が見え始めた。
インテル創業者の一人であるゴードン・ムーア氏は、1965年に発表した論文で「半導体の集積率は18か月で2倍になる」と唱えた。後に「ムーアの法則」と呼ばれるこの予測のとおり、半導体技術は驚異的なスピードで小型化、高密度化され、高性能で高速なICチップによって情報通信技術は飛躍的な進歩を遂げた。しかし今、その「ムーアの法則」に限界説が言われ始めている。ICチップを構成するトランジスタの小型化はすでにナノレベルに到達していて、物理的な限界が近いというのがその理由だ。
一方、総務省が公開している「我が国のインターネットにおけるトラフィックの集計結果」(2020年11月分)によれば、日本の固定系ブロードバンドサービスのデータ量は、この10年あまりで急増。特に昨年はコロナ禍もあり、前年比50%以上の大幅増加となっている。インターネットでやり取りされるデータ量は、今このときもの凄いスピードで増え続けていて、2025年にはその流通量が121Tbpsに到達するとする推計もある。またそれに伴って今後増加する、IT機器の消費電力量も大きな懸念となっている。
半導体やネットワークの限界を突破するには、何らかのゲームチェンジが必要になる。その候補のひとつとして注目されているのが、NTTが提唱する「IOWN構想」だ。「IOWN(アイオン)」は、Innovative Optical and Wireless Networkの略。最先端の光技術を用いた超高速で遅延がなく、省電力な「オールフォトニクス・ネットワーク」を核とする次世代のネットワーク構想だ。なお、フォトニクスのフォトは「写真」ではなく「光」を指す。
日本の置かれた厳しい現状と、NTTが目指すゲームチェンジ
NTTが今「IOWN構想」に取り組む背景には、ICT分野における日本の厳しい現状もある。ご存じのように今は、パソコンやスマートフォンなどの端末、ネットワークを支える機器、さらにはその上で展開されるクラウドプラットフォームにおいても、米国や欧州、中国のメーカーや、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれる巨大企業が大きなシェアを誇り、日本企業の存在感は薄れつつある。これは言い換えれば、今や生活に不可欠な情報通信に関するほとんどを、海外に頼り切っているということ。こうした状況を打ち破るには、新たなイノベーションによって自らゲームチェンジャーとなるしかないからだ。
その肝となる技術が、NTTが世界に先駆けて開発を進める「光電融合技術」だ。
「光電融合技術」はICチップ内の配線に光技術を導入し、その名前の通り、光と電子が融合したICチップの実現を目指す。今もデータを伝送するケーブルには光技術が用いられているが、これを中継する機器や私たちが使用する端末は電子技術で構成されていて、変換のために大きな電力消費が生じている。また「光」には多くの波長を流せるため、たとえばサービスごとに波長を割り当てることで、他の影響を受けない大容量伝送を実現することも可能。そうなれば、データを圧縮する必要もなくなり、遅延を大幅に低減することができる。「光電融合技術」を用いたICチップをネットワーク機器や端末に採用し、ネットワークの端から端まで光技術を用いることで、電力効率100倍、伝送容量125倍、遅延1/200を目指すのが、NTTが描く「オールフォトニクス・ネットワーク」だ。
3つの技術分野を組み合わせ、真にスマートな社会を実現する
「IOWN構想」では、この「オールフォトニクス・ネットワーク」を、データを適切にネットワークに流通させる「コグニティブ・ファウンデーション」と呼ばれる技術を用いて最適化し、現実世界のツイン(双子)をデジタルで構築する「デジタルツインコンピューティング」の実現を目指している。
「コグニティブ・ファウンデーション」は、あらゆるICTリソースを柔軟に制御し、調和させ、最適にマネージメントする技術。また「デジタルツインコンピューティング」は、機器の動きをデジタルでシミュレーションし、それを反映することで自動運転を実現するといった「モノのデジタルツイン」だけでなく、人間の行動や思考、社会までもシミュレーションを可能にする「ヒトのデジタルツイン」も実現。モノとヒトのデジタルツインを自在に掛け合わせることで、未来予測や革新的サービスの創出を可能にする。
たとえば安全で快適な自動運転のためには、自動車だけでなく人の動きや混雑状況など街全体をセンシングし、リアルタイムにコントロールすることが求められる。遅延のない「オールフォトニクス・ネットワーク」と「コグニティブ・ファウンデーション」による最適化、未来予測が可能な「デジタルツインコンピューティング」によって、事故、渋滞がなく、災害時なども制御可能な自動運転が実現。さらにイベントをコントロールすることで待ち時間をなくしたり、予測をもとにベストな交通手段が提案されるなど、人の流れを最適化することでスマートに移動できるようになる。
またヒトをまるごとデジタルツイン化できれば、全身センシングによる病気の早期発見のほか、たとえば臓器をモデリングしてその動きをシミュレーションすることで、病気の原因究明や予見にも役立てられる。遅延のないネットワークやコンピューティングは、もちろん遠隔診療や遠隔手術の実現にも大きく貢献するだろう。
半導体とネットワークに限界が見え始め、デジタル技術のさらなる発展に向け、大きな転換が求めらる中、「オールフォトニクス・ネットワーク」「コグニティブ・ファウンデーション」「デジタルツインコンピューティング」の3つの技術分野へ取り組むことで、真にスマートな社会の実現を目指す。これが「IOWN構想」の概要である。
動き出した「IOWN構想」を、ガラパゴス化させないために
NTTでは「IOWN構想」の実現に向けた仲間を募るべく、2020年にインテル、ソニーとともに「IOWN Global Forum」を設立。メンバーには、ICT分野のみならず自動車や食品、化学メーカーなど、幅広い企業が名を連ねている。
かつて世界に先駆けてモバイルインターネットを切り開いたにも拘わらず、ガラパゴス化した日本の携帯電話を例にあげるまでもなく、どのようなイノベーションも世界を巻き込んでいかなければ、その先の未来はない。IOWN Global Forumは拠点を米国に置き、その名のとおりグローバルに門戸を開いている。2024年を目処に仕様を策定し、2030年には「オールフォトニクス・ネットワーク」の実現を目指す。本当に世界をひっくりかえすことができるのか、期待を込めて注視したい。
取材・文/太田百合子
からの記事と詳細 ( NTTが挑む壮大な次世代通信インフラ構想「IOWN」は世界で主導権を握れるか? - @DIME )
https://ift.tt/3w74nO3
壮大な
No comments:
Post a Comment