緊急事態宣言が解除され、人々が再び日常を取り戻そうと歩み始めた中、コロナの終息を願い全国で一斉に花火が打ち上げられた。粋なサプライズにじんわりと心が温まっていたところで、フジファブリックからも粋な「楽曲」が届けられた。それは、6月3日に配信リリースされたシングル「光あれ」だ。
5月26日、ヴォーカル・山内総一郎が突如ツイッターにアップしたのは、同曲の歌詞の一部。〈光あれ!/歩き出すあなたに/遠くまで降り注ぐ愛の光/正解は何時でもひとつじゃないよ/描いた行方を照らして〉。コロナ禍で擦り減った心を優しく包み込んでくれるような、まるで作詞をした山内自身の温かい人となりそのものが滲んでいる気さえしてしまう言葉の数々が並んでいた。その翌日、バンドにとって初となる小林武史プロデュースのもと同曲が配信リリースされることを発表、さらにはメンバーが自宅で演奏したというアコースティックティザー映像も公開された。アコースティックアレンジということも相まって歌声も演奏も非常に浸透性の高い状態でスッと馴染み、どちらかと言うと聴いていて癒される感覚が強かったのだが、数日後、アレンジが施された完成形の音源を聴き、いい意味で期待を裏切られたのだ。 ストリングスを取り入れた壮大なアレンジに、気持ちに拍車をかけるようなテンポ感――なんだこの、どことなく滲んでいるトレンディドラマ感は! 誤解してほしくないのは、トレンディドラマ感と言っても古臭いわけではないということ。余談中の余談だが、筆者は連続ドラマが好きだ。毎クール自分のツボに嵌まる作品に出会うと、続きが楽しみなあまり1週間がとてつもなく長く感じたり、それを支えに1週間また頑張れる、とまで思えてしまうあの感覚。なんだかそれに近いものをこの曲に感じたのだ。この曲がどうしようもないワクワク感に溢れている理由、それは大きく分けると3つあると思う。 まず、随所にフジファブリック節がちりばめられており、単にキラキラしたありきたりな曲では決してないということ。余計な装飾はないぶん心にストレートに響く山内の歌声、そしてエッジの効いたギター、楽曲に深みと彩りを加えつつも一筋縄にはいかない金澤ダイスケのキーボード、そして特に素晴らしいのが、加藤慎一のベースライン。曲が進むにつれ、いっそう激しくうねり盛り上がっていくところが、高鳴る鼓動とリンクしてなんだか聴いていて非常に心地いいのだ。嫌味のないキラキラ感に仕立てられるのも、彼らだからこそ為せる技なのだろう。 2つ目は、フジファブリックというバンドは景色を描くことに秀でているから。曲ごとにさまざまな世界観を持つ彼らだが、デビュー当初から日本の四季や叙情的な風景を楽曲に取り入れることが多かった。陽炎、銀河、虹、夕日、ポラリス……これまでも日常の中の「光」を巧みな感性と技術でもって描き、奏でてきた。だから、この曲を聴いていても光が差し込む風景というのが自然と脳内に浮かんできたのだ。その光は、今作のジャケットで写真家の石田真澄がおさめたような、朝一番(筆者にはそう見えた)の道端を照らす光かもしれないし、あるいはこの曲を聴いた人それぞれが脳内に描く、架空の光かもしれない。光の正体はわからないけど、終わりの見えないコロナ禍に一筋の光が差し込み、その光に向かって進めば明るい未来に我々を導いてくれるんじゃないか? そんなふうに気持ちを鼓舞させてくれるような前向きな「光」が確かに見えてくる。そして、明るい気持ちにさせてくれるのだ。 3つ目は、この曲を聴いていると、こちらが予想もしていないような新たなフジファブリックに出会えるのでは、という期待に脳内が支配されるから。『音楽と人』2020年3月号掲載のインタビューで、彼らは口を揃えて「今までどおりでいいとはまったく思ってない。もっと新しい世界を見たい」と語っていた。その発言を受けて、今年は何が起きるのだろう、どんなフジファブリックに出会えるのだろう、と期待を寄せていた。そんな中で起きた一連のコロナ騒動。2月から7月まで開催予定だった〈I FAB U TOUR〉も中止となった。このツアーを完走したら、新たな感覚や目標にメンバーが出会えていたのではないか――そんなことを考えたら、第三者の自分でも悔しくてたまらなかった。しかし、この「光あれ」を聴き、その悔しさが自分の中から消え去ってしまうどころか、彼らの意志の強さに思わず感動したのだ。というのも、先述のインタビュー内で、山内は次のようにも語っていた。「今の僕がやるべきことは〈みんなの歌〉を唄うことだと思ってて。誰かの気持ちと重なるような歌というか。人の心にある感情を音楽にしていきたい」。「光あれ」をどのような意図で彼らが制作したのか、彼らから直接言葉を聞いたわけではないので筆者の独断に過ぎないが、この状況下でも彼らは有言実行を果たしたと言っても過言ではないだろう。疲れ果てた人々にピッタリと寄り添い、タイトルのように優しく背中を押してくれるようなこの曲は、確実にみんなの歌になる予感がする。 冒頭で綴ったトレンディドラマに無理やりこじつけるわけではないが、まるで次のフジファブリックのステージへの予告みたいな曲だとも思えた。「フジファブリックのこれからに期待してろよ」という宣言にとれないこともない。どこか懐かしさを感じるが、最新型のフジファブリックを確実に体感できる、素晴らしい曲だ。最後に、この曲の歌詞に書かれていることを、そっくりそのままフジファブリックに伝えたい。〈光あれ/歩き出すあなたに/遠くまで 降り注ぐように〉〈素敵な日々は きっと/続いて行くよ ずっと〉。この歌詞と同じことを、このバンドを愛する人全員がきっと彼らに対して抱いている。この曲が多くの人に届きますように、そしてフジファブリックの今後に光あれ――そう、心から願っている。
宇佐美裕世(音楽と人編集部)
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June 06, 2020 at 08:00PM
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フジファブリックがくれた一筋の光。なぜ、新曲「光あれ」でどうしようもなく胸が高鳴るのか(音楽と人) - Yahoo!ニュース
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