2020年02月21日08時00分
「天国の日々」「シン・レッド・ライン」「ツリー・オブ・ライフ」など、壮大な映像と哲学的な内容も含んだ鋭い人間観察に基づく作品で知られるテレンス・マリック監督が新作「名もなき生涯」で初めて実話の映画化に挑んだ。
第2次世界大戦中、ナチス・ドイツに併合されたオーストリアで兵役を拒否した農夫の物語。勇気ある行動を貫く主人公をことさらに英雄視せずに描くことで、見る者にさまざまな問いを投げかける。韻文的な会話や象徴的な映像など、叙事詩のような独特の『マリックタッチ』が巨匠健在を実感させる。
物語の舞台はオーストリアの緑豊かな山あいの小さな村。農夫のフランツ(アウグスト・ディール)は妻のファニ(ヴァレリー・パフナー)やかわいい娘たちと暮らしていたが、軍事演習に駆り出され、戦争やナチスの在り方に深い疑問を抱く。戦局が激しさを増す中、「罪なき人は殺せない」と兵役を拒否することを決心するが、その決意が小さな村に波紋を呼び、一家は孤立を深めていく。
小さな悪意から露骨な仕打ちまで、マリック監督はさまざまな出来事を積み重ねて一家が追い詰められていくさまを丹念に描いていく。「大勢に迎合しなければ除外される」共同体の構図は、物語の時代から約80年がたった今も全く変わらない。観客はフランツ夫婦や村の住民の行動を目撃しながら、「自分ならどうするか」と自問しないではいられないだろう。
この作品は昨年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、キリスト教関連の団体が選出するエキュメニカル審査員賞を受賞した。劇中では幾度となく「神」のフレーズも飛び出すが、単なるキリスト教的な人道主義者の物語にはとどまっていない。
物語の根底には過去のマリック作品でも見られた東洋的な輪廻(りんね)転生の概念も流れ、実に多元的。「神」が語られる際に映し出される雄大な自然は、人間には及ぶべくもない普遍の存在であり、限られているからこその人生の尊さをも実感させる。今作は宗教的な倫理観に基づく映画というより、より根源的な人間の良心を追い求めた作品と見るのが正解だ。
フランツは何度も「君の行動は何の変化ももたらさない」と忠告されながら、自分の意思を変えようとしない。そのかたくなさは彼を窮地に追い込むが、一方で他の人々の心にさざ波も起こす。権力者ではなく、フランツのような無名の市井の人々の思いが積み重なって時代を変え、歴史をつくっている。原題の「A HIDDEN LIFE」にも、そんなマリック監督の思いが込められているのだろう。
◇家族の映画としての魅力も
作品のもう一つの魅力、それは『家族の映画』としての側面だ。フランツは自身の信念に従って行動するが、それを理解し、彼を精神的に支えるのが妻のファニ。フランツの行動を理解できない自分の姉や彼の年老いた母親と時に反目し合いながらも、彼の決意を受け入れる。夫婦の関係を中心に、親子やきょうだいの関係も内包した構成が、作品をより豊かにしている。
フランツの描写にも注目したい。宣伝のコピーは「ナチスドイツに立ち向かった一人の男がいた」。映画的な感動を狙うハリウッド流なら、よりドラマチックに仕立てるのが常道だが、マリック監督はフランツをヒロイズムとは無縁の、ただひたすら「自身の良心に忠実な」、ある種、不器用な男として描いた。結果、血の通った一人の人間としてスクリーン上に再生させることに成功している。
フランツ役のディールはドイツ、ファニ役のパフナーはオーストリア出身。米独合作映画であるため、ドラマ部分の会話は英語で交わされるが、彼らを罵倒するセリフはドイツ語で字幕も入らない。違和感なくドイツ語圏の物語を提供したいというマリック監督の作家としての良心の表れであると同時に、主人公と村人や裁判官らとの間にある埋めがたい溝を実感させる効果的な演出と言えるだろう。
「名もなき生涯」は2月21日公開(時事通信社編集委員・小菅昭彦)。
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February 20, 2020 at 03:00PM
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人間の良心の在り方、観客に突き付ける テレンス・マリック監督・脚本「名もなき生涯」 - 時事通信ニュース
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