オミクロン株の登場で再び不安が高まる新型コロナ。最初にコロナのニュースを知った時、真っ先に浮かんだのがこの小説だった。「守り人」シリーズをはじめ上橋ファンタジーの世界を愛読する私にとって、感染症といえば『鹿の王』なのだ。長い物語の鍵は謎の病。二人の男性を中心に話が紡がれる。
国々の争いが続く中、ある戦士団の頭、ヴァンがその一人である。戦いに敗れて仲間を失い、奴隷として岩塩鉱で働いていた。そこをある日、山犬が襲い、嚙まれた人々は苦しみながら死んでいく。恐ろしい疫病だった。なぜかヴァンは生き残り、そこで母と死別したらしい幼い一人の少女を見つける。ヴァンはユナというその少女を連れて逃げ出した。
もう一人は医術師ホッサル。岩塩鉱で起きた悲劇の原因をつきとめ、感染拡大を防ぐため病と向き合う。正体はどうやら黒狼熱。究明したホッサルはある治療法にたどり着く。
ヴァンは体内の不思議な変化と闘いながらユナを育て、旅の途中である家族と出会い、生活をともにする。近づく心の距離やユナの成長は物語を温かく包み込む。2人の主人公はどうなっていくのか。ヴァンのあとを追うサエという女性の狩人も魅力的な存在だ。
また、人間と共に生きる動物たちの姿も描かれる。飛鹿の出産を見守る場面では、その臨場感に思わず呼吸を忘れてしまいそうになった。まだまだたくさんの幸せな場面がある。
だからこそこの壮大な物語に親しみを感じるのだろう。大切な人との小さな幸せを大事にしたい。そう思わせてくれる物語である。そして生きることの素晴らしさを教えてくれる。
大阪市東住吉区 小泉歩理(18)
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