Dearliy(ディアリー)CEO進藤貴史が描くビジネスマインドの原点は、幼少時代、両親に連れて行ってもらったこの場所にある。
あの空間に詰まった人々の笑顔、ゲストはもちろん、キャストまでもが自ら楽しもうとするポジティブな姿勢。ゆえにDearliyはテーマパークを作る壮大な計画を有し、そのための具体的なタイムラインも敷いている。
さて前置きはここらへんにして。まるでウォルトディズニーを目指すかのような、この若者の本気度と、そして原体験と向き合ってみたいと思う。
【戦略1】人生そのものを詰め込み、共有できるインターネットサービス
「世界中の人々が『1日1日』人生を謳歌する社会の実現」
「Enjoy Dear Life!!(人生を謳歌しよう)」
これがDearliyのビジョン、そしてスローガンである。
もちろん進藤は大真面目だ。テーマパークで幼少の進藤が感じたのは、自分の人生を主体的に楽しもうとする姿勢である。そんな人たちをひとりでも多く増やして、ポジティブな連鎖を創りたい。そのために導き出したものが、ユーザーが人生そのものを詰め込めるプラットフォームサービスだ。
「その日に撮影した写真や動画、その日に思ったひと言を書き留めたり、大切な友人とも手紙をやりとりする感覚でメッセージを交わしていただきたい。そんな新しいインターネットサービスを創ろうと思っています」
チャットが主流となった現在、たとえ大事な言葉を受け取ったとしても、いつしかタイムラインとともに流れていく。その状況に対して、もう一度、思い出と結びつけて、人生を記録していこうというのが発想の根幹だ。
「端的に言えば、クローズドの日記です。自分にとっての大切な1日を記録したり、仲間・家族・恋人との間で思い出をシェアできるサービスになります」
β版は2021年9月に公開予定。そして正式にサービスをローンチした後、1年後には国内80万人程度のユーザー数に膨らんでいることを進藤は見込んでいる。その根拠は、先行する某カレンダーアプリだ。
「毎日使われるインターネットサービスとして、私たちのサービスはカレンダーアプリが近しいのですが、そのアクティブユーザー率が約75%。この数字も想定して捉えています。そして5年後、国内において目指すべき目標は、3,500万人。これは日本国内におけるInstagramのユーザー数です。その先にはLINEの8,000万人という数字があり、私たちはそこに向かっていきたいと思います」
ただしITとは、簡単に真似されるもの。逆に真似されなければ、それまでとも言える。その意味でも「究極的な差別ポイントは、ブランド力にある」と、進藤。Dearliyが提供しているサービスだから使いたい、そう思っていただけるように、仲間やファンを獲得していきたいとする。
【戦略2】絵本によって、価値観を共有し、仲間・ファンを獲得する
そのための強力なツールとなるのが、もうひとつの柱事業、すなわちIP(知的財産権)ビジネス事業である。
「私たちが伝えたい価値観や哲学を、物語のなかでキャラクターに代弁してもらいます。誰が書いたとも分からない文章を読んでいただくことはハードルが高くても、そこにビジュアルがあると、コミュニケーションが一瞬で伝わります。言語ではなく、非言語で伝えられるものと考えた時に、絵本に考えがまとまりました」
絵本の構成はすでに完成、画作りの要であるイラストレーターも決定している。取材を行なった2021年5月時点では、キャラクターを練り込んでいる状態だ。ここから先、クラウドファンディングを通じて、事業をアピールしていく。
クラウドファンディングにする理由は、多くの人たちを巻き込みながら作れること。「本を出しました」ではなく、多くの人たちと一緒に「本をつくりました」という側面を、進藤は重視する。絵本は5,000部売れたら成功案件と言われる世界だが、その5,000部を、出版後1年以内に到達しようと、進藤はあらゆる策を講じている。
壮大な目的遂行の過程を、緻密に計算する男のパーソナリティ
テーマパーク設立計画と、インターネットサービスを主軸にした今どきのスタートアップ戦略。改めて、大胆さと丁寧さを併せ持つ進藤貴史とはどういう人物なのか。彼の人生を遡り、学生時代を尋ねてみた。
「端的に言うならば、克己(こっき)です。身体が弱く、そして人前であがってしまう。そういうコンプレックスが嫌いで、どうやって自分を変えようかという毎日でした」
身体の弱さを克服するために、陸上部の門を叩き、中学校から高校まで中長距離を走り続けた。好きだから走るのではなく、弱い自分を克服するために走ったのだ。1,500〜5,000メートルは、まさに肉体の苦しさとの鬩ぎ合いだが、得意な短距離走に心が揺らぐことはなかった。
大学入学後は、好きな音楽を手掛けようと、ギター演奏に挑戦する。本来ならば、仲間たちとロックバンドを組んで大好きなUKロックやヘヴィメタルを演奏したかったが、ギターの基本を習得できるクラシックギターアンサンブルを選んだ。
ところが練習では弾きこなせた楽曲も、本番では震えてしまう。弾けない自分を目の当たりにした進藤は、周囲にアドバイスを求めた。
「失敗を気にしすぎるからビビってしまうのでは?」「自分自身が、ぜんぜん楽しめていない」......。そうしたなかで、進藤は誰も気に留めてもいないことを、自分だけが気にしすぎていると気づいた。自分のミスなど、どうでもいい。オーディエンスは、その時間を楽しみたい一心なのだ。
「聴き手のことを、何も考えてなかったんだな、と思ったんです。その瞬間に、面白いように緊張しなくなりました。相手を楽しませるために、今、自分がするべきことはなにかと視点を移すようになって、あがり症を克服できました」
社会人になってからの人物像はどうだろう?学習院大学法学部を卒業した進藤は、EC業界最大手の楽天株式会社に入社する。当時、5億円程度の売上があった部署で、客単価が5〜10万円。したがって扱う件数がおびただしく、その当時を、進藤は「ほんとうに眠れない、帰れなかった」と、苦笑いする。
そんな境遇で、進藤は3つのことを学んだ。1つめは“やりきること”。
相手は個人商店だった。無責任に自分が手を放した瞬間に、クライアントの生活が崩れるかもしれない。したがって一度掴んだ手綱を放すことは許されなかった。
2つめが、“自分で自分の環境は変えられること”。
仕事が多すぎて帰れないのであれば、ワークフローの見直しを図るべきである。進藤は、一部を業務委託することで、自分たちが残業するよりもプラスの効果が出ると試算した。どうしてダメなのか。どうしたら突破できるのかを考え抜いた。
3つめは、“無駄なことはひとつもないこと”。
たとえやりたくないことでも、視点を変えると、何かにつながっているもの。「これまでに関わった縁、自分を形成している価値観、そういったすべてがこれからの仕事に活かせます」と、進藤。
単なる夢物語(子供の心)と、やりたくないことをやってきたこと(無駄なことはない)、このふたつを掛け合わせることで、進藤の幼少からの思いは現実味を帯びてきた。
自分がワクワクする。そして相手をワクワクさせる
Dearliyの将来を、進藤は「インターネットサービスをリリースした後、5年以内に社員を100〜300人規模にしたい」と考えている。その5年以内に、事業を軌道に乗せ、稼げる企業体質にしたうえで、さらなるスポンサー企業やファンのお客さまに支えられつつ、テーマパーク設立を10年後に着手・実現したいとしている。
東京ディズニーランドのオープン当時の建設費が約1,800億円。土地の購入価格などを考えると、3,000億円程度。その数字を踏まえたうえでのタイムライン設定だ。そんなDearliyは、今後、どんな人物像を必要とするのか。
「“ほんとにそれ、やるの?”ということに対して、ポジティブに捉えて着手してもらいたい。それこそ、ウォルト・ディズニーがディズニーランドを作ろうと言い始めた時も、さまざまな意見があったはずです」
スレンダーな容姿に、爽やかな笑顔。今どきの柔和さが印象的な進藤から、テーマパーク設立という壮大な夢が繰り広げられるギャップに、恐らく誰しもが驚くだろう。しかし彼には不屈の突破力がある。しかも業界大手で実績を積んだお墨付きだ。
「放っておくと自分ごとではない問題も、いつか誰かにとっての自分ごとになる。自分だったら、こう解決したい。自分だったらこう面白くしていきたい。そういうスタッフを増やせたらと思います」
進藤の語りには、他人を引き込む魅力がある。自分が夢中になり、相手を夢中にさせる。そして世の中に対して夢中を作る。なるほど、Dearliyでのワークライフには、格別の豊かな時間がありそうだ。
からの記事と詳細 ( スタートアップから、テーマパーク設立を──ポジティブな連鎖を生み出す、ある若者の起業譚 - Forbes JAPAN )
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壮大な
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