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Monday, May 31, 2021

「建物としての自画像」を表現した壮大なインスタレーション『マーク・マンダース —マンダースの不在』 - Pen-Online

展示室のエスカレーターを3階まで上がると、1体の立体作品が出迎えてくれる。生の粘土を思わせる彩色されたブロンズの頭の像が、木と鉄の構造物に挟まれた状態でこちらを向いている『未焼成の土の頭部』(2011-2014)だ。

「建物としての自画像」というコンセプトで、架空の芸術家として「マーク・マンダース」と名付けた人物像を立体作品や家具、空間などを融合させて作品化する現代アーティスト、マーク・マンダースの個展が東京都現代美術館で臨時休館を経て再開した。回廊状の展示室内には、木材と薄いビニールのシートを組み合わせて架空のスタジオを生み出し、建物に置くためのオブジェや家具などそれぞれが独立した作品でありながら、展示全体がひとつにまとまることで壮大なインスタレーションとして展開する。

緻密に構成された立体作品が単体で魅力を放っているのはもちろんのこと、空間全体のつながりから、ファンタジーに迷い込んだような、それもマーク・マンダースという現代アーティストの脳内で明暗さまざまな要素が混淆する世界を歩いているような体験を引き起こす。会期前日の記者会見で、オンラインの質疑応答の際に次のようなことを話していた。

「アーティストとして作品を制作する時間がとても好きで、とくにフィニッシュする前の未完成な状態に惹かれる。そこには不在が、何かが欠けていると感じさせる部分があり、未完成であることで新たな何かが起こりそうな予感をはらんでいる。私が不在や未完成を大事にするのは、そうした予感を感じたいからなんだ」

『マインド・スタディ』(2010-2011) マンダースはテンションという要素を大事にする。家具と彫像が一体化したこの作品でも、複数の要素がテンションをもって結びついていることがわかる。ちなみにマンダースの週末の趣味は、家具づくりだという。

たとえば1920年代に欠けていたと想像できるピースを美術史に埋め込むべく作品を制作するなど、美術家たちが発した言葉や時代ごとのムーブメントの参照はマンダースの作品にとって重要な背景となる。また、若い頃にはフランツ・カフカの短編小説で起こるような不条理がめくるめく展開する世界に影響を受けるなど、語らずともストーリーを想起させる空間を生み出す手法は圧巻だ。

東京都現代美術館の3階展示室に広がるのは、壮大かつ未完のインスタレーション。会場に足を運び、空間を歩き、立体作品それ自体やマーク・マンダースの意図と対話することで初めて、あなたの中でこのインスタレーションは完成する。

『ドローイングの廊下』(1990-2021)部分 「建物としての自画像」を構築するために、マンダースは鉛筆や紙を使って間取り図を描く。部屋のサイズや天井の高さなど、すべてが作品の一部となり、自在に配置できる。その肝となるのは、作品同士が対話をしているかどうか。

『4つの黄色い縦のコンポジション』(2017-2019) 展示空間を歩いていると、作品が個別に展示された状態から、木の構造部品とビニールを組み合わせた架空のスタジオが徐々に展開し、作品のスケール感も大小さまざまに、ときには動物も混ざりながら展開する。マンダースはリモートで設営の指示を行い、その完成形をオンラインで見ながら「美術館にひとつの長いセンテンスが生まれていると感じた」と喜びを表していた。

展覧会カタログ『マーク・マンダースの不在』マーク・マンダース著 HeHe ¥3,850(税込)

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