S.O.P.大阪遷都プロジェクト
本書『S.O.P.大阪遷都プロジェクト』(ヨシモトブックス 発行、ワニブックス 発売)のタイトルを見て、11月1日(2020年)の住民投票で否決された「大阪都構想」関連の本かと思ったら、まったく違っていた。昭和の大阪を舞台にした痛快小説である。
「大大阪」の時代があった
戦前、大阪が東京を凌駕する人口を擁し、「大大阪」と呼ばれた頃、一人の名市長がいた。第7代市長の關(せき)一。御堂筋をはじめとする都市計画や地下鉄建設でその後の大阪の骨格を作った人物として知られている。
その伝説の市長は、大阪遷都の計画を進め、ひそかに集められた資金は、大阪某所に隠され、いつしか忘れられていた......。
難波から電車で10分ほどの街が舞台。お好み焼き屋を切り盛りする富瀬肇は東京出身。祖父が戦前、大阪市で行政アドバイザーのような仕事をしていた。祖父が残したノートや資料から、ある壮大なプランを思いつき、大阪に来たのだった。
本書の中で、富瀬は關への思いをこう語る。
「今の大阪に關さんがいたら――きっと一万倍ステキな都市になる」 「關さんの真骨頂は大阪で教育や福祉、市民生活を充実させたこと」
關は大阪の人ではない。明治6年に静岡で生まれ、41歳になるまで一度も大阪で暮らしたことがなかった。一橋大学の前身の東京高等商業学校を主席で卒業後、大蔵省を経て母校の教壇に立つ。都市計画と社会政策が専門の学者だった。縁あって大阪にかかわり、大阪の地で都市計画の理想に邁進した。しかし、昭和10年に急逝する。
富瀬の祖父と關が果たせなかった夢「S.O.P.セント・オーサカ・プロジェクト」をかなえようと、富瀬は動き出す。
東大阪界隈の濃ゆい仲間たち
そのプロジェクトに加わったのは、アイドルをめざす女子高生・恵梨香、信用金庫職員・河地ゆあ、元売れっ子芸人のカーブ、スナックのチーママ・辰巳幸子、事故現場特殊清掃業者の安城椎也、木造アパート大家の岸堂育枝の6人。いずれも東大阪界隈のコテコテに濃ゆい、ひとくせもふたくせもある面々だ。
メモを手掛かりに探索
「S.O.P.」にかかわった最後の生き残りの老人、橋場を知り、残したメモを手掛かりに「お宝」の探索を始める。
「暗闇。横穴。湿気。奥の奥。大阪名所。再挑戦。」「ada」
候補地のスポットを100ちょっとまで絞り込んだ。
「通天閣、大阪城、難波八阪神社、生國魂神社、水かけ不動、高津の宮、ライオン橋、水晶橋、中之島界隈、黒門市場、鶴橋......」
富瀬が動き出したのを知った橋場は悪党と手を組み、さまざまな妨害工作をする。派手なドンパチはないが、スリリングなストーリーが展開する。「お宝」は誰の手に落ちるのか。
地下鉄御堂筋線の幻の梅田駅の話はさもありなん、という蘊蓄に満ちている。東京地下鉄の銀座線に遅れること6年。いらちのうえに東京に負けるのが大嫌いな大阪人は、梅田本駅が完成するまで昭和8年から10年までのたった2年間、梅田仮停留所を使用したというのだ。その現場に行ってみると......。
「お宝」争奪をめぐる、どろどろとした話かと思ったら、理想の大阪づくりをめぐる歴史への造詣が下敷きにあり、すがすがしいものを感じた。
著者初の地元・大阪舞台の文芸作品
著者の増田晶文さんは、1960年大阪府旧布勢市(現東大阪市)生まれ。同志社大学法学部卒の作家。著書に『果てなき渇望』『吉本興業の正体』(いずれも草思社)などがある。本書は故郷・大阪を舞台にした初の文芸作品。
本書の発行時期が、いわゆる「大阪都構想」の住民投票の直後というのは偶然なのだろうか? 大阪市の廃止が反対多数で否決され、「大阪都構想」は消えた。
もちろん、「大阪都構想」は本書に出てくる「大阪遷都」とは、無縁のものだが、大阪人の心のどこかに、「大阪遷都」という願望は潜んでいるのかもしれない。
「關一」は、「関一」と表記した本が多いが、本稿では本書にならい、「關一」とした。
関心のある人は、参考資料に挙げている『主体としての都市 関一と近代大阪の再構築』(勁草書房)、『「大大阪」時代を築いた男 評伝・関一』(公人の友社)に当たられるといいだろう。
BOOKウォッチでは、大阪関連として『たそがれ御堂筋』(ハルキ文庫)、『大阪』(ちくま新書)、川上未映子さんの小説『夏物語』(文藝春秋)、『世界遺産 百舌鳥・古市古墳群をあるく』(創元社)などを紹介済みだ。
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November 06, 2020 at 03:23PM
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大阪遷都を夢見る男が主人公の痛快小説 『SOP大阪遷都プロジェクト』 | J-CAST BOOKウォッチ - BOOKウォッチ
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