SB 2020リーダーシップ・サミットの2日目は、サステナブル・ブランド創設者のコーアン・スカジニアCEOと世界最大手の消費財ブランドや小売企業のCMO と CSOの対談で幕を開けた。登壇企業はSBのイニシアティブ「Brands for Good」に参画する企業だ。「人々が必要とするものをどう実現するか」をブランド構築の根幹に据えている企業だ。より良い未来に向けて変革を推進するチームワークについても議論が交わされた。
CMOとCSOの連携によって生まれる力
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)を務めるヴァージニー・ヘリアス氏は、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)とCSOの関係を「双子のような関係で、勝利をもたらすもの」と表現した。自身がCSOに就任した際に、CMOのマーク・プリチャード氏からサポートしてもらったことを振り返り、CMOとCSOが一緒に取り組めば、成功事例を生み出せると語った。
プリチャードCMOのアドバイスは「サステナビリティをイノベーションを起こす上で必要不可欠なものにしよう」ということだった。当初は懐疑的な意見も社内にあったが、海洋プラスチックを最大25%使ったシャンプーHead & Shouldersのボトルや、リサイクルされたプラスチックと海洋プラスチックで作られた食器用洗剤フェアリー・オーシャン・プラスチックボトルなどの取り組みが、人々の考えを変えていった。「サステナビリティの話なんて聞きたくないと思っていた人たちが、『それが欲しい』と言ってくれるようになった」と語る。
プリチャード氏はCMOの役職に就く人たちにこうアドバイスする。
「持続可能で壮大なアイデアを見つけ、広報や会議、年次報告書などを通じて、そのアイデアに光を当てて欲しい。そうすることで、アイデアは本当の意味でビジネスの仕組みに組み込まれていく」
「ビジネスと企業責任(CR)を同時に実行することで、より大きなアイデアを生み出すことができる」と、米小売大手ターゲットのCMOでデジタル&戦略担当役員のリック・ゴメス氏は話した。ターゲットがロイヤリティ・プログラムを開発していたとき、マーケティング・チームと企業責任チームが協力して、顧客が寄付したい慈善団体に投票できる仕組みを作ったという。同プログラムを通して、現在、115以上の慈善団体の支援が行われている。
ペプシコのCSOサイモン・ローデン氏は、マーケティングのキャリアと個人的な持続可能性への関心、そして家族で農業を営んできた経験を生かしながら働いている。ペプシコの主要な機能と部門のそれぞれにサステナビリティ部門の従業員がいるという。実施する教育プログラムは、マーケティング担当者が自社ブランドの果たす社会的役割を理解するのに役立っている。また、同社の「Sustainable from the Start」イニシアティブは、イノベーションが持続可能な取り組みと財務指標の両方に基づいて行われているかを判断できるようになっているそうだ。
Brands for Good:消費カルチャーを変革するコラボレーションとは
より良い世界をつくるには、企業だけでなく消費者の行動変容も必要となる。行動変容を促すために、ブランドはその影響力をどのように利用するのが最善の策だろうか。これはSBのイニシアティブ「Brands for Good (BfG)」の中心テーマでもある。SBリーダーシップ・サミットには同イニシアティブに参画する企業が登場。共同プラットフォームから生まれる重要な教訓のいくつかについて意見を交わした。
パーパスを実現するためのクリエイティビティをどう育むか
「ここにきて初めて、投資家や政府、消費者それぞれの変化を求める声が本当の意味で一致してきている。そしてブランドはそれに応えざるを得ない状況になってきている。そのためには、突破力のある創造力が必要だ。既存のものを解体するブランドが勝ち組になる」
英ロンドンに拠点を置く、グローバル・マーケティング・サービス・グループ、電通イージスのソーシャル・インパクト担当グローバル・ヘッド、アンナ・ラングリー氏はそう語る。
チーム内でそうしたレベルの創造力を育むには、サステナビリティがブランドの精神の中にうまく組み込まれていることが重要だ。
ネスレ・ウォーターズのEVP兼CMOのユミ・クレベンガーリー氏は、「サステナビリティが組み込まれていれば、非常に大きな力を発揮する。サステナビリティはブランドをどう構築するかの基盤となり、創造性を発揮することにつながる」と話す。
多様性とセクターを超えたコラボレーションは、変化を促進するための重要な手段だ。
ニューヨークに拠点を置き、B Corp認証も取得しているソーシャル・イノベーション・コンサルティング会社Grounded Worldの共同創業者兼最高戦略責任者フィル・ホワイト氏は、「ステークホルダーをまとめることができればできるほど、より良い環境を整えることができる」と語った。
「異なる背景や経験、意見を持つ人々を集めることは、ブランドがキャンペーンにより共鳴してもらい、共感を育むことにもなる。ブランドが言っていることを考えるだけでなく、人々に感じてもらうことの重要性を過小評価すべきではない。それこそが行動の原動力になる」(ラングリー氏)
新型コロナウイルス危機によってブランドに信憑性を求める声が高まっていることは間違いない。ラングリー氏は、「方向転換をして、伝えるメッセージを変えることができるブランドは、より関係性が強くなっている」と語る。クレベンガーリー氏は、ヒューマニティ(人間性)をブランド構築の方程式に戻す必要性があると強調し、「『ブランドが何を言いたいのか』ではなく、『人々が何を必要としているのか』が重要なのだ」と語った。
ライフスタイル・イノベーション:顧客の行動変容の原動力は、従業員のエンゲージメント力から生まれる
従業員は、企業のバックグラウンドや歴史の中核を担うだけでなく、顧客や消費者との対話の最前線に立つ存在だからこそ、ブランド・チャンピオンになれる可能性を秘めているのだ。ブランド・チャンピオンとは、ブランドの創造・発展に責任を持ち、ブランドに対する社内外からの支持を呼び込む人を指す。
「従業員のストーリーはブランドを構成する大事な要素であり、それを活用する必要がある」とSAP SuccessFactorsのCMO、キルスティン・アレグリ・ウィリアムス氏は説明した。
この点について、VISAの副社長兼CR・サステナビリティ担当のダグラス・サボ氏も同意する。「当社では、従業員をソーシャル・グッドの実現に寄与する、われわれの提供価値の一部と捉えている。サステナビリティの取り組みにおいて、報酬やナッジ(???)を利用して、従業員の行動を転換させる方法も視野に入れている」と話した。
現在、多くの従業員がリモートワークをしており、社内でのサステナビリティに関するコミュニケーションが疎かになるという問題がある。VISAは今、職場ではなく家庭での取り組みを重視するようにしている。一例として、従業員がどんな風に持続可能な生活を送っているかシェアするInstagramチャレンジを紹介した。
新型コロナウイルスの時代だからこそ、文化的価値観がこれまで以上に重要だということが明確になってきている。消費財メーカー・マーケティング会社クロロックスのエド・フーバーCSOは、「正しいことをすることを重視する姿勢が、新しい働き方やコミュニケーションを実現する上での重要な成功要因になる」と語った。
マーケティングにはインパクト測定のための安定した共有ツールが必要
BfGは、例え競合同士であっても、学びを共有し、インパクトの測定方法やソリューションを開発することで、互いに成長できる場を提供しています。
ナショナルジオグラフィックの元グローバルブランド戦略担当EVPのエマヌエーレ・マデドゥ氏によると、ブランドが成功するにはこうしたレベルでの共創が不可欠になってきているという。
「マーケティングにおいて、勝つという意味が変わってきている。今日では、世界にポジティブな変化をもたらし、顧客を中心に据えたナラティブマーケティングを行うことで勝つことがより重要になってきている」
米ボストンに拠点を置くアグリテックのスタートアップ「インディゴ・アグリッシュ」のジェニファー・ベトカCMOは、インパクト測定の開発には経験が重要だという。つまり、大局を見て、より大きな社会的影響をもたらす持続可能な行動を促すことのできるものでなければならないということだ。
マデドゥ氏は、この前例のない時代に「消費者はブランドが踏み込み、導くことを許容している」と語った。「新型コロナウイルス感染症の拡大は、マーケティングを含む多くの分野での変革を加速させた。変化と適応を続けていくことが、この後の勝利の要因となる」。
サステナビリティを長期的に定着させるには
最後に、VISAのリン・ビッグガーCMOは、マーケティング部門が主導する自由と、リスクを冒しても良いと思えるような環境を整えるこが重要だと語った。
「みなさんはマーケターたちを自由に走らせなければならない。素晴らしいアイデアの多くは、現場で働くマーケターから生まれるのだから」
ビッグガーCMOは、パンデミックの中で加速している変革のトレンドについても話した。現金支払いから脱却したいと願う加盟店と消費者が本当に求めているものについて語った。VISAはタッチフリー決済を実現するより良い支援方法を模索しており、より持続可能な支払い方法の開発にも取り組んでいるそうだ。詳細は近々、発表されるという。
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June 09, 2020 at 09:28AM
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