前回までのあらすじ
2021年8月、世界の主要証券取引所に、スーパーコンピューター『不可思議』が導入される。次の月、日本国債が暴落、それに端を発する金融恐慌が世界を襲った。続いて、各国の通貨に電子マネーが導入される。その開発、運営の裏側では稀代の女犯罪者、運天亜沙美が暗躍していた。世論の動揺を抑えるために金融庁、マスコミのスケープゴートにされた元ヘッジファンド代表、辰野怜は、すべてを失った失意の中で、母の昔の夫で異形の男「ヤブさん」に出会う。その元で、古代中国で蝶になり、さらに戦場で闘う弓の名手「荘周」とシンクロする夢を見る。目覚めた怜が母の病院を訪れるとその姿はなく、「あなたも蝶の夢を見ますか」という謎の手紙が残されていた。
怜は再会した元部下、松岡孝に連れられ、謎の宗教団体『善界の道』の本拠地に向かう。教主の明神真は、怜の「兄」と名乗る人物だった。一方、量子コンピューター『渾沌』のインストールを進める理科院の山梨由紀子は、初めて『渾沌』の声を聞く。
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第10話 隠蔽と抑止
日本国債暴落に端を発した金融恐慌に続いての深い不況……結果的にそれがAI(人工知能)の利用を促進させ日本経済を革新的に好転させつつある……経済学者たちは現状をそう認識するようになっていた。
各経済部門のAI導入による生産性の飛躍的向上はバブル崩壊以降、慢性的デフレから抜本的に脱却出来ずにいた日本に再び成長への道を開いたと喧伝されていった。
イントラ……インテリジェント・リストラクチュアリングの名の下でAIを導入しての大規模な人員削減……それが上場企業の間で流行のようになっていた。企業にとって人件費というコストが絶対的に避けられないものという常識が変わった。給与、賞与だけでなく、健康保険、年金、福利厚生など雇用による負担がAI導入で消えることは不況下の企業にとって僥倖(ぎょうこう)だった。
「100人……いや1000人必要だった仕事がAIによって僅か10人分のコストで出来るようになった!」
「これほどAIが強力とは!!」
雇用コストの大幅削減だけでなく作業効率が飛躍的に上がっていくのだ。大手メーカーの工場の過半数は完全無人工場となり、メガバンクや証券会社の窓口業務は全て対面型ディスプレーでAIが対応した。乗用車やトラックの自動運転技術は急速に進み、公共交通がAIコントロールに代わったことで事故は桁違いに少なくなった。
「ヒューマンエラーのない世界とはこういうことだったのか……」
安心と安全は人間が運用に介在しない世界で獲得できることを人々は知る。
そして、人間にとって重要な教育の場でもAIの進出は顕著だった。学習塾や予備校というものがそれまでの形ではなくなっていた。全て端末を介しマンツーマンでAIが授業を行う形にどの教育産業も移行していた。学生一人一人の習熟度に完璧に合わせることのできるAI授業。その効果が認知されるやいなや瞬く間に広がっていったのだ。特区に設けられた義務教育の場でもAIによる授業が高い成果を上げるようになる。
人間の衣食住、中でも小売店舗や飲食に関係する世界でAIは急速に浸透した。コンビニエンス・ストアの無人化は最も早く実現した。
そして外食産業でも次々とAI管理の無人店舗が出来ていた。店員のいない牛丼店や回転寿司店を手始めに……数多くのメニューを供給するファミリーレストランや居酒屋チェーンでも省人化・無人化が進んでいった。厨房の中で調理を行うのはAI管理ロボットで配膳や清掃も全てロボット、人手不足に悩んでいた状態が嘘のように解消される。
「AI管理無人システム移行への初期投資は5年で回収できます」
人件費高騰に悩まされ続けた業界はAIに飛びついた。
そんな省人化・無人化された店舗の安全確保もAIが万全なものにしていた。紙幣が消えて電子マネーやクレジットカードによる完全決済の浸透。あらゆる場面で安全に決済は行われるようになっていた。
そして、社会の安全は公共の場において完璧にAIで実現されていた。顔・身体・動作認証システムによって公共の場所での犯罪は不可能になっていたのだ。既に自宅室内以外のどんな場所にも監視カメラは存在し死角はない。そんな環境下でAIは人間の動きから一瞬でどこの誰かを99.9999%の確率で特定することが出来た。万引きや無銭飲食、公共の場での暴力行為は撲滅された。
そして、AIの導入はそんな目に見えるところよりも見えないところで進んでいた。
企業の経理や総務、そして管理業務がどんどん人間の手を離れていた。企業活動の中の多くを占めていた非生産、非営業部門がAIに置き換わり企業のあり方を革命的に変えていた。大企業の中に人事部は事実上なくなっていた。AIによって査定された人間たちがAIの示す部門最適に従って異動させられていく。そこでの人間はそれまでの価値を持ってはいない存在となっていた。
「こうすればAIにあなたは認められる!!」
「AIと共存できるのはこんな人!」
そんなタイトルのノウハウ本が何冊も出される時代となっていた。
市場資本主義経済システムの下、上場企業がAIを中心に据えて経営を行うことは必然だった。何故ならそれによって収益が劇的に改善し株主から高い評価を受けるからだ。
株式市場では『AI指数』なるものが銘柄選択の際に最重要視されるようになった。それはAI導入によってどれだけROE(株主資本利益率)が改善されるかを証券アナリストたちの分析によって示されるものだった。
そんな日本の株式市場は金融恐慌から劇的に回復を見せていた。少子高齢化による人口減少と内向き志向で縮小を続け、ガラパゴス化する一方だった日本企業がAIという救世主によって変貌を遂げたと海外メディアは称賛し、海外投資家は日本株への投資を再開していた。
そんな彼らの最大の注目企業が“thymos(サイモス)”だった。日本が世界に誇るスーパーコンピューター『不可思議』を擁し、様々なAIサービスを格安で提供する企業だ。まだ非上場だが上場されれば世界最大の時価総額となるといわれている。
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May 10, 2020 at 04:00AM
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第10話 隠蔽と抑止 ── バタフライ・ドクトリン 第1章 FUKA-SIGI【不可思議】 - Forbes JAPAN
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